(視点1)

夜が呼吸をして瞬いていた。
絶え間なく人が流れていく。こんなに物音に溢れる午前一時は体験したことがない。静寂を取り払われた深夜の世界を、初めて味わっている。
見えない波に流されるように、人がぞろぞろと歩いていく。こんなに沢山の人が、一斉に同じ方向に歩いていくのは、ある種の異様な光景のような気がした。黒い濁流に流されているみたいだ。光と影が折り重なって、めまぐるしく動く影絵を描いている。
歩かなきゃ。
そう思えば思うほど、足がすくんで動かない。アスファルトの地面に、影を縫い付けられてしまったような心地がする。
このまま暗闇に溶けて消えてしまったらどんなに楽だろう。
無表情で夜の街を歩く人の姿が、ゆらゆらと漂う黒い亡霊のように見える。
「どうしたの」
突然、スーツ姿の男の人に声をかけられた。思わず、飛びのいてしまった。とても失礼な反応だったかもしれない。




(視点2)

地上の夜景が目を刺してくる。
仕事で酷使した疲れ目をこすりながら、横断歩道の点滅と同時に歩き出した。絶え間なく人が流れていく。
日付はとっくに変わっていて、腕時計を見ると、針は一時をさしていた。こんな時間でも、どの建物にも当然のように眩しく明かりが瞬いている。
高層ビルの中に、切れ切れのモザイクアートのようにはめこまれている四角い明かり。あの窓の向こうには、きっとまだ帰ることも眠ることもできずに残業している誰かがいるのだろう。
見えない波に抗うように、横断歩道の真ん中で、人の群れがぞろぞろと交差する。まるで濁流の中を泳いでいるみたいだ。
歩かないと。
そう思えば思うほど心が重い。立ち止まってぼんやりしたくなる気持ちとは裏腹に、体は機械的に動いて、いつもの道を歩き続ける。
ふと、そんな光景の中。
茫然と立ち尽くして動かない女の子を見つけた。
「どうしたの」
声をかけると、女の子はびくりと肩を震わせた。
明らかに怯えられている反応だったけど、反応があるだけでも幸いだった。僕が声をかけるまで、彼女はその場に微動だにせずたたずんでいた。幽霊に話しかけてしまったかと思ったぐらいだ。





















(視点1)

夜が呼吸をして瞬いていた。
こんなににぎやかな午前一時は体験したことがない。静寂を取り払われた深夜の世界を、初めて味わっている。
見えない波に流されるように、人がぞろぞろと歩いていく。こんなに沢山の人が、一斉に同じ方向に歩いていくのは、ある種の異様な光景のような気がした。光と影が折り重なって、めまぐるしく動く影絵を描いている。
歩かなきゃ。
そう思えば思うほど、足がすくんで動かない。アスファルトの地面に、影を縫い付けられてしまったような心地がする。
このまま暗闇に溶けて消えてしまったらどんなに楽だろう。
無表情で夜の街を歩く人の姿が、ゆらゆらと漂う黒い亡霊のように見える。
「どうしたの」
突然、スーツ姿の男の人に声をかけられた。




(視点2)

地上の夜景が目を刺してくる。
仕事で酷使した疲れ目をこすりながら、横断歩道の点滅と同時に歩き出した。
日付はとっくに変わっていて、腕時計を見ると、針は一時を刺していた。こんな時間でも、どの建物にも当然のように眩しく明かりが瞬いている。
高層ビルの中に、切れ切れのモザイクアートのように明かりのついている窓の向こうには、きっとまだ帰ることも眠ることもできずに残業している誰かがいるのだろう。
見えない波に抗うように、横断歩道の真ん中で、人の群れがぞろぞろと交差する。まるで濁流の中を泳いでいるみたいだ。
歩かなきゃ。
そう思えば思うほど足は重く、立ち止まってぼんやりしたくなる心の奥とは裏腹に、体は機械的に動いて、いつもの道を歩き続ける。
ふと、そんな光景の中。
茫然と立ち尽くして動かない女の子を見つけた。
「どうしたの」
声をかけると、女の子はびくりと肩を震わせた。
明らかに怯えられている反応だったけど、反応があるだけでも幸いだった。もしかしたら幽霊じゃないかと思うくらい、微動だにせずたたずんでいたので。



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