1/23 「オルゴール」

#365日ss
本の分厚い表紙を開く。
途端に、星を弾くような高い音が零れ出した。驚いて本を落としそうになった。
「びっくりした?それオルゴールだよ」
男の子が笑っていた。
「僕ね、いろんな形のオルゴール作れるんだよ、ほら見て」
横で蝶が飛ぶ。
鱗粉が散る度、音が流れていた。

1/24「籠」

#365日ss
籠いっぱいに、星の欠片を集めて歩いていた。
灰色に白に、煤けたまだら。
今や銀河はどこも荒野になっていて、星の残骸も惨めな石ころばかりだなぁ。
ある日出会った爺さんが言った。
この星の欠片で、オルゴールを作ってみよう。
星は歌を教えると、輝き方を思い出すそうだ。
1/25「蜜柑」

#365日ss
こたつの上で猫が呻いていた。
「ミカンが、おミカンが食べたいよぅぅ」
しっぽがじたばた跳ねている。
「今年はね、ミカンが実らなかったから、どこにも入荷されてないってさ」
「そんなぁぁ、ぼくの丸いお友達が」
「餅でも食ってなさい」
こたつとミカンは猫の友だってさ。
1/26「こたつ」

#365日ss
うちの猫が時々姿を消す。どこに行ってるんだろう。ある日こたつの中に潜り込んで、いつまで待っても出てこなかった。
ぱらりとめくってみる。
「冬の猫の王国の入口だよ」
どこからか声がした。ほんわり赤い電熱灯の中に、猫が鎌倉に入ってる景色が浮かぶ。
そんな馬鹿な。
1/27「ココア」

#365日ss
「私はココア6世、ここの国での神官を務めております」
小さな女の子がにっこりと微笑んだ。頭には白くてふわふわの毛並みをした、獣の耳。
「私の国で王様になってくれるお人を探しているのです」
おもてなしで出されたのは、温かいココア。
…これ、またたびの匂いがする。
1/28「リボン」

#365日ss
祠の前には五つ、並んで置かれた丸い石があった。
奇妙なことに、それぞれに、異なる色の細い布のようなものが巻きついている。
赤、桃色、紫、黄、青、どれも鮮やかな色だ。
「村の呪いを解きにきたのですね」
祀られている御神体のリボンを解くと、奇跡が一つ起きるという。

#365日ss
「プレゼントをあげる」
まっすぐに差し出す彼女の腕には、ピンク色の蛇が巻きついている。手首から肘へ、肩へ、そして首筋へ。螺旋を描きながら這い登る。
1/29「トランプ」
#365日ss
ハート、ダイヤ、クラブ、スペード、四つの形の小さな石がある。
二つは紅く燃えるような艶やかな色彩を帯び、もう二つは黒曜石の輝きを持つ。
「ふむ、ゲームが始まったか」
四つの石を掌で弄んで、シルクハットの男が独りごちる。
赤が死ぬか黒が生きるか。兵隊達の戦争だ。
1/30「ハート」
#365日ss

杯に紅い液体を注ぐ。これは、新しく生まれる女王への祝杯である。
「貴方の心臓を、私へ捧げなさい」
美しい紅の女王は、艶やかな声音で兵達へ命令する。
紅く脈打つ、命の証の杯に忠誠を誓う。
1/31「エース」

#365日ss
「助けてください!」
白い壁の間を歩いていると、突然、若い女性が息を切らして走ってきた。裾を翻すのは鮮やかな赤、髪を飾るのも真っ赤な宝石。
「ふむ、君はハートかダイヤか」
「・・・ダイヤです」
シルクハットの紳士は首を傾げた。
女王の後継者候補。逃げてきたのか。

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