「」



「さー、素敵なものいっぱい用意したから、食べて食べて」

ガチョウの丸焼きと、リンゴのワイン。
ラム酒のケーキに、薫製の肉。酢漬けの魚のマリネ。
白い砂糖を固めた菓子。

「なんだっけ、何のお祝い?」
「12月のお祝い」
「お祝いの理由がわからないだろ。何のための宴会だ」
「理由なんて必要ないでしょ。この季節はこういうもんなんだ、って納得しなさいよ」

「聖誕祭・・・」

ぽつりと響く、カルマの一言。
静かに部屋の片隅で、読書に興じていたが、開いたページの一節に指を置いて、その単語を味わうかのごとく唇に載せる。


それは忘れ去られたお伽話に似ている。
犠牲になった聖者の物語。
カルマはその逸話が気に入ったらしい。
宴の由来を調べていてたどり着いた書物の1ページをたどりながら、沈黙のままそっと微笑を浮かべていた。


12の月が満ち欠けを繰り返し、
365の星が天を巡る中で、
何か楽しい気持ちにするための行司の日が、いくつかある。
冬の日の宴も、そういうものの一つ。

「今日はね、とっても美味しいものを沢山用意する日なの」

「・・・それは何のために?」

「冬だし、1年終わり際だし、星が綺麗な季節だからかしら。春夏秋を通り過ぎて、蓄えた恵みに感謝してお祝いするの」

緑色の木に、金色の星の飾り。雪の飾り。
赤いリボンに、白いレース。

小麦粉のお菓子。
甘く煮込んだ肉料理。
酒をかけた魚料理。

無性に楽しそうにしているリズを見ながら、魔法使いの二人は、不思議そうな顔をして彼女を眺めていた。

「豊穣祭のようなものならまだわかるけど、それとは少し違うんじゃあないか」

「楽しいことするのに、特に理由が必要だとも思わないけど。そういうものなんだーと思って、特に気にしてないわ」

「ふうん・・・・・・」

「リズってやっぱり変わってる」

「せっかく楽しいのに、『なぜ?』なんて理屈をこねるほうがよっぽどひねくれてるわよ。そんなこと言ってたら、お酒も料理もお菓子も、何もあげないわよ?」





キィ、と、軽く軋む音を立てて、扉が開いた。
外の空気が流れ込む、空間の切れ目。

黒い扉が開いた隙間から姿を垣間見せたのは、色白な頬をした女の子が一人、そしてもう一人。

「あの」

先に入ってきた一人が、何か話し掛けようとする。ほのかに頬を紅潮させ、そろそろと様子をうかがうように店内を見渡した。

「いらっしゃい。お酒かしら?それとも」


リズはすぐ微笑んで、入口で立ち止まる少女に手を差し延べる。

この空間に足を踏み入れたその時から、あなたはただ一人のお客様。


「何でも。お茶でもちょうだい」
「あら、お茶でいいの」
「あたしはカクテル」

そして二人はカウンター席につく。
ラックとカルマは端のボックス席へと移った。

「ここメニューないの」
「なんでも。飲みたいものや食べたいもの言ってくれたら用意するわよ。・・・とは言っても」

リズはくすりと小さく笑って少女へと歩み寄った。

「あなたが欲しがってるのは、お酒よりももっと何か別のもののように見えるけど」




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2010年元旦に年明け記念SS。




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