「」
たとえば存在することには意味があって
その意味というのは役目であって
一遍の断章詞のように
続きが不意に途切れても
生きるという現象は
流れて続けていくリズム
*
クローンとして生まれたラック。
人として生活することは許されていても、いつか自分が犠牲を命じられたときはそれに対応しなければならない。
仲間の中には、それを絶望に感じて生きている者もいたけれど、ラックは気楽に考えていた。
今ここに居るからには、楽しく生きたい。
自分がいつ死ぬかなんてそんなのどうでもいい。
病気の女の子と会う。
喉に腫瘍があって、もうすぐ切開して、声が出なくなるそうだ。
白い肌に刻まれた、紅い首飾り。・・・・・・可哀想に。
彼女の壊れた心臓と、ラックの造り物の心臓は共鳴する。適合。
ああ、それなら、この心臓を君にあげよう。俺にはこんなもの要らない。
君の歌が途切れることなく続くなら。
代わりにこの胸には、丸い時計を入れておこう。
それでも、女の子は死んでしまう運命。
欠けた歯車。
心臓が無くなっても、ラックは死ななかった。
ああそっか、俺はクローンだ。
時間の止まった人間だ。
老いることもなければ、傷つくことも悲しむことも必要とされない。喜びさえも、命さえも偽物だった。
傷ついた誰かの一部になるために、いつかばらばらになるために生まれた自分。
途端に、この世界の全てがわずらわしくなった。
音や声が全部騒音に聴こえる。
この世界の形が見たいと思って、月の移住民と一緒に月に移り住んだ。
より機械的で、より無機質な世界。
流れる時間は、ずっと夜。
だけど、まるで居場所を見失わないための目印のように、蒼い地球がぽっかりと見える。
特に何かやることがあるわけでもないけれど、
地球から届くラジオを聴くのが好きだった。
あるとき、ほんの少し重力のバランスが崩れて、
月の空気は吹き飛んでしまった。
残ったのは、ラック一人きり。
ずっとラジオを聴いていた。
何か音を聴いていたかった。
やがて壊れて音が消えると、一人で歌う。
人間の存在って何なんだろう。
時間の概念って何だろう。
突きつけられたのは、無音の宇宙。
だけど今確かに自分はここにいる。
誰も居なかったはずの月の世界に、一人の影を見つけた。
異空間を渡り歩く男と出会う。
「この世界には、いくつもの宇宙が重なっている」
一緒に来るか?
途切れてしまった音を見つけに。
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2010年元旦に年明け記念SS。
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