夏になると、夜空に炎の華が咲くんだよ。
っていう話を聞いている。

毎年の恒例行事だってさ。
東洋の布の着物を着て、お祭りを開くんだって。


夜空に大輪の花を咲かせるぞ!!

「エルアーレ!こっち側のほうがよく見えるよ!こっち!」
「ちょっと急に引っ張らないでよ、転ぶじゃない!」

夏の大仕事。

「てめぇら!準備は万端か!ファードリアスの歴史に残るような、どえらい花火咲かせるぞー!!」

法被姿でいきり立っているのは、華炎術師のチャルカナ。
石榴色の髪を首の後ろで縛って、威勢良く拳を振り上げて叫んでいる。

「パシオン!」
「はいぃ!」
「アタシが教えた火種、ちゃんと仕込めたか?」
「うん、ばっちり!きっと」
「きっと、ってなんだよ!間違いなく、って胸張っていいやがれ!」

僕は、藍色に滲む夜空を見上げて、額の汗を手の甲で擦っていた。

夏の夜空に、火の花を咲かせるお祭りをやるらしい。

清涼祭というと例年は、風の花の奏祭とか、光の向日葵のコンテストとか、そんな傾向だったんだけどな。

今年は、今迄姿を見せなかった、炎属性の天空造園師が帰ってきた。
ということで、チャルカナに指示を仰いで、今回ド派手に夜空に花咲く火の華祭りをやることになった。

「んふふー、ボクねぇ、夏は嫌いだけど、火の華祭りは大好きだよ」
「ガリザ、いつからそこに」
「かき氷買ってきたんだー、パシオンにあげるよ。エルアーレちゃんと二人で食べといでー」

唐突に現れて、意味ありげにニコニコしながら去って行く。だいたいいつも通りだった。何がしたいんだよこいつは。

「エルアーレがさぁ、珍しいことに、ちょうど今夏期休暇なんだってさ!もーー、一緒にお祭り見に行けるなんで、僕、すっごく楽しみでさー」
「はいはい、しあわせそうなノロケくん。頬がさっきから緩みっぱなしだよーー。ほっぺつんつん」
「そして僕はとうとう決心したんだ」
「ん、何を?」
「僕は、エルアーレに好きだって告白する!」
ガリザは、ウサギちゃんの形に盛られたアイスクリームを舐めている。
そして、きょとんとして僕のほうを振り向いた。
「……あれ? 今更そこから??」
「なななななんだよう!そんなバカにした目で見るなよううう!」


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