金色の星を取りに行く。


「というわけで、12月の間は、これらの杉の木を大事に管理するのが、お前ら天空造園師の仕事だ。わかったな新米ども」


僕らの暮らすファードリアスの気候は、五つの季節に分けられている。春、皐、夏、秋、冬。
12月になると、日が暮れるのが早くなる分、街中に金色の灯りの飾りがあちこちに姿を現す。

「ところで、お前らってさ、クリスマスは何か面白い予定とかあるの」

仕事仲間のニックが話しかけてきた。
ツリーにするためのヒカリ杉の苗木を運びながら、早くも集中力が途切れている。

「なんで? 何か面白い予定を入れるものなの、クリスマスって」

ちなみに、クリスマスと呼ばれる12月のイベント行事は、もともとは昔、例年にない極寒に見舞われ、一面が雪に閉ざされた年、12月25日の冬至の日に、ヒカリ杉の上に星の欠片が積もって、そのおかげで人々は雪に埋もれずに冬を越すことができたという言い伝えから、今に至っている。

「クリスマスって言えばさぁ、好きな人に星の欠片を贈ると恋が実るんだろー。なんかそういう話とか興味ねぇのお前ら」
「おお、おおう?」
「おいおい……」

「そういう話とかどうでもいいから、仕事しろよお前ら」

ニックの雑談に割って入るかのように、冷静な一言が会話を遮る。
見ると、僕達の先輩にあたる天空造園師が、剪定したヒカリ杉の枝を両手いっぱいに持って、こちらへと歩いてきていた。

「この小さいのは鉢に植えるから、水床も用意しといてくれ」
「はぁい」
「おお、家庭用サイズだね、この枝は。花屋が繁盛しそうだなぁ」
「そうだよー忙しいよー、寒いからってうかつにホイホイ風邪ひいて、急に仕事休んだりしないでくれよーお前ら」

飄々と話しながら、先輩はせっせと手際よく、小鉢に黄色の柔らかい土を詰めていく。
この青い髪をした先輩は、レジ先輩と言って僕らより二つ年上。
風を読むのが得意で、天候が荒れてる日でもリファの枝を剪定するのが上手だって聞いてる。
僕には、先輩は意外と土を触ってるほうが楽しそうに見えるんだけどね。

先輩はふと、僕のほうを見て、ぽんと静かに肩に手を置くと、ごく小さな声で僕に耳打ちしてきた。

「まぁ、どうしても大事な用事が入ったら仕方ないから、人数調整聞くうちに早めに言えよ」
「えっなんで、別に休むつもりはないですけど、どうしてそういうこと僕にだけこっそり行ってくるのさ先輩」
「前にエルファタータの天空花壇に、幼馴染の女の子と会いに行ったって言ってたじゃんかー。そういう女の子と何か約束してるのかなぁって」
「べべべ別に何も約束してないですよ、ほら、風花壇師ってそうそう簡単に自分の居る塔から降りてきたりできないじゃないですか」
「じゃあ、会いに行ったりしないの」
「え」
「ヒカリ杉だけじゃなくてさ、クリスマスっていろいろと、空から散らす花とか葉とか新しく必要じゃん。この寒い季節だから、天候調整するの凄く大変だし、そういうの運ぶのも、俺達天空造園師の仕事だし」
「そうなんだ」
「そうだよ」
「もしかして、会いに行ってもいいのかな」
「口実にはばっちりじゃねぇ?」

のほほんとした顔で、レジ先輩は僕の目の前でピッと親指を立てて見せる。

エルアーレのいる塔に、冬の花を届けに行く。
何てことだ。
次のリファの苗を育てる時期までもう会うチャンスはないかもしれないと思っていたけど、そんな展開があったなんて。
今日は12月2日。
サンキュー!ジーザス!!冬の星の神様、12月の聖夜に祝福あれ!!

「24、25日はさすがに仕事忙しいから帰ってきてほしいけど、まぁ、こっちでなんとかしてやるよ」







inserted by FC2 system