今日もあたしのお店には、いろんな仮面のお客さんが来る。
あたしはそんな人の波を眺めてるのが好きだよ。

「クラハ、そこの棚の商品補充しとして」
「へいへい」
「やる気のない返事してたら怒るよ」
「ほーい」
「……」

ここは、ほんのちょっと不思議な甘味を売っている。
小瓶に入ったシロップとか、可愛い形の角砂糖とか、野菜のジャムとか、粉末のキャンディとかね。
興味の無い人は、立ち止まらなくてかまわない。
でも、ちょっとだけ面白いな、素敵だな、って思ってくれるなら、足を運んでくれると嬉しい。

「店長ー、今度、ようかん仕入れましょうよ」
「なんで急にそんな和風になるのよ」

そんなとき。
お店の入り口に人の影。

「何かお求めですか?」

十代半ばの少年かな。目が丸くてちょっと童顔。

「なんとなく見てただけだけど…」
「どういったものをなんとなく眺めちゃいたくなります? 手に取ってもらってもいいですよ」

ちょうど目の前の棚の、赤い透明な瓶を手に持ってみせる。
瓶の内側では、ふつふつと小さな泡が揺らいで弾けている。これは、苺味の泡沫。

「このサイダーね、両手でこうやって持ってると、熱で色が変わるんです」
「サイダー?ぬるくなるんじゃないの?」
「まぁまぁ、見て楽しむためっていうか。ちょっと持ってみて」

ぎゅっと手を握ったら、男の子は、急に顔を真っ赤にして逃げていってしまった。


「なんだよなんだよ、ヘタレっこめ・・・」


あたしは思わずつぶやいていた。

まぁ、そんなに甘酸っぱいことがあるわけでもないけれど。
あたしの場合、この仕事場のエプロンが、おしゃれなドレスに匹敵する勝負服。
ここで出会えるお客さま、足を止め立ち止まり、手を止め商品を見てくれる人が、少しでも幸せな気持ちになってくれるなら。


「ねー、店長、今度、ういろう仕入れましょうよ」
「なぜういろうよ・・・」
「お茶によく合いますよ」
「自分の嗜好で商品そろえようとするのやめなさい」


今日も一日平和です。






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