電車は思いのほか混んでいた。
同窓会の帰りのことだ。

「ここから乗り換えなんだけど・・・・・・」
「もう最終行っちゃったかな」
「いや、まだあるけど。でもだいぶ時間かかるね」

コトンコトンコトン。
反対側の路線で、電車がゆっくり通り過ぎていく音が響く。
まるで催眠術の呪文みたいに、気だるく骨の髄へと染み込んでくる。

「ちょっと遠回りだけど、歩いて帰ろうか」
「遅くならない?」
「いいよいいよ」

駅から一歩外に出ると、そこは見知らない夜の街の景色だった。
街灯やお店の灯りが、ぽつりぽつりと灯っている。

「寄り道するの好き?」
「うん」

こういう、ちょっと洒落たお店にふらりと気の向くときに立ち寄って、ちょっと値の張るワインなんか飲めたらね。
ああ、大人になってよかったなぁって思うよ。
数年ぶりに再会したあなたは、ほろ苦い笑いを浮かべて、そんなことを言うんだ。
その言葉の裏には、よかったなぁって思うのと半々、ちょっと立ち止まったりつまづきかけたこともあるんだろう。
見せたくないアルバムのページだけ、そっととばして見せてくれているみたい。そんな感じ。
やがて、白いテーブルクロスの上に、小さなお皿がいくつか並ぶ。
赤いアルコールの入ったグラスを、カラン、と小さく打ち合わせた。何を記念する乾杯にしようか。
部活帰りに寄り道して、安いジャンクフードを広げていたときも、きっととても楽しかったよ。
あの頃想像したことあったっけ。こうして向かい合って、甘いお酒を一緒に飲む時間なんて。

「あの頃は、時間がすぎることが怖くて、今この瞬間を精一杯楽しまなきゃ、って思ってたんだけど」
「大人になるのって、もっと楽しいことだと思ってたの」

コトコト煮込んだミネストローネ。
路地裏のカフェ、ハンバーグ。

「うん。案外悪くないよ」

また今度会うときは、わざと一本電車を乗り過ごして、違うお店を探してみよう。





その数日後。
あなたからの着信で、こんな会話を少しだけ話していた。


「ね、あのとき寄り道したお店、探しても見つからないのよ」
「場所忘れちゃっただけじゃない?」
「そんなはずないよー。あたしたち、あのときどこの駅で降りたんだろう」


たまには、人生こういうことでもなくっちゃ、面白くないわ。





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