公園で、紙芝居をやっているひとがいた。
身振り手振りをつけて、お兄さんがお話を読んでいる。
「ここから先が面白いところなんだよ。さー、どんな怪物がでてくるかな、じゃんじゃんじゃん」
「いいから続きめくってよお兄ちゃん」

突然、風が吹いて紙芝居が飛んでいってしまった。

木の葉が散らばるみたいに、空に飛んでいく物語の断片。熱のこもった手をすり抜けていく。
「お話、おわり?」
「ああ、ばらばらになっちゃった」
紙芝居の前で見ていた子達は、残念そうな顔をして離れて行ってしまった。
「あーっ、ちょっと待ってお前ら! この続きが凄い盛り上がるから! 泣けるから! お兄さん続き覚えてるから」
みんな、散らばっていった紙芝居を諦めて、他の遊びに移っていく。

でも僕は面白かったので、まだ残っていた。

「ぼく、一人?」
「うん。一緒に遊んでくれる子いないんだ」

本当は嘘なのだけど。でも、お兄さんの物語の続きが聞きたくて、今日は他では遊ばないことにする。
楽しそうなんだもん。

「じゃあお兄さんが、もっともっと面白いお芝居をしてあげよう!」
にやりと楽しそうに笑って見せた顔は、まるで盗賊が「お前だけ秘密基地に案内してやるぞ」と、そんな話をしてるみたいな感じがした。
お兄さんは、足元の地面を、拾った木の枝で引っ掻く。線をいくつか描いて、丸や四角を作る。いくつかの小石を並べた。
僕は、宝の地図を広げて見せられているようでわくわくした。
そして簡単に図形を描いた丸や四角に、お城やお店、砦、そんな名前をつけていく。
小石には勇者と名前がつけられた。
「小石一つでも、物語になるんだよ」
お兄さんが語ってくれたお芝居が、どんな物語だったかは、ここでは秘密にしておくね。
この続きのお話は、次に会った時に一緒に考えることになっているから。

お兄さん、また遊ぼうね。目に焼き付いたのは、夕焼け小焼け。
風に散らばった紙芝居は、いつか見つけたら拾っておくよ。



inserted by FC2 system