暗い部屋で、電子音が響いている
「ふっふっ、今宵も我輩の歌姫は、良い声をしておるのぅ」
「その通りですわね閣下」
ここは、機械の歌姫を操る司令塔。
紫の夜に彷徨う人々に、癒しの甘い歌声を配信している。
「姫の歌声には、我輩の開発した特殊な洗脳信号が組み込まれている。この声を聴いた者どもは、やがて酔いしれ、我輩の操る機械人形の意のままに動くようになる。
そして我輩の帝国を作るのだ」
「大変です、閣下、今宵の電子音が、何やら不可解なノイズに侵食されています・・・ネットワークに接続できません」
「なんだとぅ!? 一体何者だ!!我輩の愉快な宴を邪魔しようとするのは」
「お待ちください閣下、発信を受信に切り替えて、電波障害の原因を探ってみます・・・何か聴こえます。わかりました、ノイズの正体は、人の声のようです」
「声だと?」
受信していたノイズを手繰る。それは、少女の泣き声のようだった。
「何だこの声は、何があった」
直ちに彼は、悲哀のノイズを発信しているところへ、自分の音声を繋いでいた。
「ノイズが聴こえた。何があった。ええい、なんて耳障りなんだ。我輩の歌姫の声の配信が途切れてしまったではないか。
仕方ない、今宵は其方のノイズが消えるまで、其方にのみ歌声を配信するしかない」
夜の帝国を築こうとしている彼は、至極、心の弱った女性の、悲哀の電波に弱かった。
「貴女の悲しいノイズが流れていると、我輩は歌姫の宴を楽しむことができない。どうか、泣かないで」
「閣下、あなたは心が優しすぎるので、いつまでたってもあなたの計画するような世界征服が進行できません。わたくしはいかがいたしましょう。ラジオのDJでも練習すればよろしゅうございますか」
「ええい黙っててくれ姫よ!」
幾千幾万の人間の感情を織り成して、今宵も静かな夜は更けていく。







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