床一面に、色とりどりの布が広がっている。
散乱して折り重なる、赤、桃色、紫、黄色、白、水色。
「ねぇ!そっちの裁断終わった!?」
「全然。まだ採寸もしてない」
「うっそぉ、レース縫い付けるとこまで間に合わないじゃん!」
うら若い少女達が、輪になるように集まって、それぞれが手に持っている布地を縫っている。
「ねー、休憩しよ、ケーキ食べるー?」
「休憩が早い!一時間前にティータイムしたばっかり!」
「あ。その苺のショートあたしのね」
「じゃあそのモンブラン」
「あたしティラミス!」
「フォークが無いよー、誰か持ってきてよー」
「ちょっとあたしの話、聞いてる…?」
ピンク色の布地を手にした少女が、甘い誘惑に持ち場を離れて行く仲間達を見て、がっくりと肩を落とした。
「来週は、新しい魔法使いの着任式なのよ、そのときのパーティのためのドレスを作ってるのよ、あたし達が仕事しなくて、誰が衣装を作るのよ!」
「なんとかなるって、そう言いつつも毎回どうにかなってるって。今までに衣装が間に合わなかった理由で、裸で出場した魔法使いはいないわ」
「間に合うか間に合わないかよりも、手ぇ抜きたくないってのもあるのよ!今までで一番可愛いお洋服作りたーいーー!」
耐えかねたように叫んで、ふと彼女の目が、テーブルに置かれたケーキに移る。
白くてふわふわのクリーム。
花が先並ぶような苺やフルーツ。
ビーズ飾りのような砂糖菓子。
「あ、これだわ!!このケーキのクリームみたいなの。裾のレース飾り、こんな形で縫いつけたらもっと作りやすいし見映えも良くなるわ!わぁあ、急にやる気出た!」
「よーし、じゃあ、一緒に休憩して一息ついたら、またみんなでレース縫いつけがんばろ」
「先に裁断だってば」
「ねーー、シュークリームもあるよーー食べよーーー」
にぎやかな笑い声のように、部屋の中に散らばる、赤、黄色、桃色、白、水色、色とりどりの布地や糸や裾飾り。
花咲く乙女の衣装には、不思議の魔法がかかっている。






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