こんな気分になったことは、今まで一度もなかったと思う。
歩きながら、足がとても重い。ずしりと大きな石が、体のどこかに乗せられているみたいな気分だ。
何かが、おかしい。
そんなはずない。いつもどおり、今日も旅の途中で、次の街にたどり着くのが楽しみで、特に今日はいい天気で綺麗な青い空が目の前に広がってて。
歩いてて楽しくならないはずがないのに。
一緒に歩いているのは、いつもの三人。サーナと、クーリア、リノーラ。

「どうしたの、チア、なんだか顔色が良くないよ?」

あたしの前を歩いてたサーナが、ふと振り返って、心配そうにあたしの顔を覗きこんできた。
ああ、いつもよりあたしが歩くのが遅くなってるから、気にかけてくれるんだ。
今歩いてるのは、いくつか分かれ道の続く小道で、地図を見ながらのんびりと歩き進んでたところだった。
分かれ道と言っても、森の中でいくつか行く道があるだけで、迷い込むような心配がある場所ではない。
少し道を外れると、小川だったり野原だったり、散策して歩くと楽しい場所かもしれない。
さっきも、横道に入ったところに綺麗な水辺があって、お昼の休憩をしてからまた出発したところだった。
もう少し先に歩いていたクーリアが、あたしとサーナが立ち止まってるのに気づいて、あたしの方へと寄ってくる。
そして、あたしの顔を見て、やや意外そうに首を傾げていた。

「顔色良くないってか、なんか元気ないよね? お昼ごはん、あれだけじゃ足りなかった? サンドイッチ食べて、あーおなかいっぱいって言ってたじゃん」

うん。言った。乾チーズとセサミのサンドイッチで、薄切りのパンがさっくりしててね。
って、今はそういうこと語って元気になれる感じでもない。
やっぱり何かがおかしい。

「疲れちゃった・・・・・・」

何も考えず、ぽろりと自然にあたしの口から零れてきたのは、なぜかそんな台詞だった。
サーナとクーリアが、きょとんと目を丸くして顔を見合わせていた。

「ああ・・・・・・、そうなんだ」
「じゃあ。もう少し休憩してから出発する? そんなに急がなくてもいいし。チアがそういうんだったら」

二人がかけてくれる言葉は、あたしの耳に届かなかった。
あたしは、その場にへたりと膝をついて、地面にかがみこむように座り込んでしまう。

「あたし、もう、歩きたくないや」

足に、力が入らない。どうしてなんだろう。

「・・・・・・・・・チア?」

やっぱり何かがおかしい。






「チア、ほーらほら、ビスケットだよ! フルーツだよ! シュガーキャンディだよ! あんたがおやつのお菓子に目ぇ輝かせないはずないじゃない!」

次々と荷物から、あたしのとっておきの非常食を引っ張り出して、これでもかとばかりにクーリアが、あたしの目の前に並べてみせる。
あたしの様子がおかしいということで、クーリアとサーナ、それと他の旅仲間も不審に思ったらしい。
さっき休憩した泉に引き返して、もう一度、あたしを休ませてくれている。
だけど、なんかもう自分でもよくわからないんだけど、そういう問題でもないんだ。
全然体に力が入んなくて、みんなの声も、すごく遠くから聞こえるような感じ。
なんだかぼーっとして、眠くてたまらないときみたい。
無気力、って、こういう状態なのか。

「どうしたのかしら、何かの病気かな・・・・」

サーナにもこんなに心配そうにさせちゃって、申し訳ない。
って、普通のあたしだったら思うはずなのに、一体どうしてなんだろうこんなに他人事みたいに心が冷めちゃってるのは。

「熱は無いみたいなんだけどね。チア、何かあった? おなかでも痛い?」

あたしの額に手を添えながら、リノーラがしきりに不思議そうに首を傾げている。
なんだか嫌だ。この状況。無性に腹立たしいような、重苦しいような気持ちがこみ上げてくる。あたしは首を左右に振って、リノーラの手を振り払った。

「なんかもう、やだ」
「え?」
「やだもう、歩きたくないのーーぉぉ、みんなのことなんて大っ嫌いだから、ほっといて一人にしておいてよーーめそめそ」

あたしの言葉に、サーナ、クーリアが、ぎょっと目を見開いていた。
ぐずぐずと、目から涙がこぼれてきて、あたしはその場で泣きじゃくり始める。
いや、いやいやちょっと待て。なんであたし、そんなこと言ってんの。なんという心にも無いことを。
でも、口は勝手にぐずぐずと苛立たしい言葉を零すし、体は重くて歩きたがらないし、心は冷めてて何も感じられない。
あたしの心の片隅に残ったわずかな正気が、これはいつものアタシじゃないぞ、と、警鐘を鳴らしている。

「あちゃー・・・、こりゃあ、ずいぶん重症みたいだね」

リノーラが苦笑いを浮かべながら、うずくまって泣くあたしを見下ろして、首筋を掻いていた。

「重症?」
「ねぇ、この子なんかおかしいよね」

サーナとクーリアが、リノーラと並んでひそひそ話し合っている。聞こえてるけども。

「考えてごらんなさいな。今までチアが『歩きたくない』って言ったことある?」
「歩けないなら走り出すような子だと思うんだけど・・・・・・」
「うーん」
「こりゃ絶対、何かあるわよねぇ。悪い妖精にでも取りつかれちゃったのかな」


そしてクーリアが、手に取ったクルミ入りのビスケットを、くるーりくるーりとあたしの目の前に泳がせて見せている。手を伸ばすか食いつくか、さぁこれでどうだ、って。そんな、餌付けじゃないんだから。

「そんなものいらない。馬鹿にしないでよーーめそめそ」
「はいはーい、リノーラ隊長、やっぱりこの子病気よ間違いないわ」
「んんーーーー・・・・・」

ビスケットにそっぽを向いたあたしの反応を見て、クーリアが真顔でびしりとリノーラへと報告していた。
ああちょっと待て。あたしが普段どおりかそうでないかっていう、この判断基準何なんだ。

「あのぅ・・・・・・」

頭を抱え込んでいた仲間達の方へ、おずおずと聞こえてくる誰かの声。

「もしかして・・・・・・ここの泉の水を飲んだんじゃないでしょうか・・・・・・・」

リノーラ達が振り返ると、そこには、白いケープを身に纏った男の子が佇んでいた。
背はそんなに高いほうじゃなくて、サーナと同じかもう少し低い。年齢はあたしと同じくらいかな。
短いマントのような薄手のケープを肩にかけていて、上着とズボンも白で統一されている。丸い帽子も白だった。
どちらかというと女の子に見えるような色白な頬をしていて、柔らかな猫毛の栗色の髪。
深い蒼色の瞳は、やや気弱そうな感じで瞬きを繰り返していた。

「急に、普段と全く正反対の言動を取ったりしてないですか? 優しい人が急に意地悪になったり、元気だった人が、いきなり気弱になったりとか。俺はその原因を調べてたとこだったんですけど・・・・・・」

白衣装の彼は、おずおずと視線を彷徨わせながら、リノーラ達に話しかけている。そして、かがみ込んでいるあたしと、その目の前に広がる泉とを交互に見ていた。

「そうだね。だいたいそんな感じなんだけど、あんた、何か知ってるの?」
「私達の仲間がね、急に元気がなくなっちゃって、病気じゃないかと心配してたの」
「そうそう、この子ね、だいたい何かおやつあげれば元気になるんだけど、全然反応しなくなっちゃったのよ」

いや、クーリア、おやつの話はもうやめようよ。恥ずかしいなもう!
って思うけども、全然言葉にする気力もないんだった。
ただ横から彼らの会話を聞きながら、ぼんやり泉の方を眺めてみる。
あー、動きたくないなーー。面倒くさい。・・・っていう、そんな自分の心の声がする。嫌だなぁ、これ。

「俺はキッシュと言います。えと、近隣の、タレースという水の都の神殿に所属する神官なんですが。
 どうも水の精霊が悪い変質を起こしているとの話を聞いて、調べに来ていました」
「水の精霊?」
「まぁもちろん、普段は目に見えないものなんですけど。
 で、どうやらわかったのが、この泉の水が、人の持つ性質を反転させているようですね」

キッシュと名乗った彼は、あたしの前に歩いてきて、あたしの様子をしげしげと眺めている。
穏やかな蒼い瞳は、優しそうな色をしていた。

「ちなみに、水を飲んだのは彼女だけですか? あなた方はなんともないですか」
「ええ、大丈夫よ。私達は飲んでないの」
「ふーん・・・・・、性質の反転? ってことは何、考え方や言動が普段と逆になっちゃうってことなの?」
「おそらく、そんな感じです。・・・・・・ああ、俺がもっと早く、原因を突き止められていたらよかったんですけど。こんなんじゃ神官失格だ」

キッシュは腰のベルトに携えている、細い小瓶を取り出す。
傾けると、さらさらと細かい水の雫が散る。そして小声で、何かまじないごとのような言葉を唱えている。わー、なんか、神官って感じだ。
額と頬のあたりにひやりと心地いい感覚がしたけど、それ以外に特に変化はないみたい。

「うーん、やっぱり聖水だけじゃ治らないみたいだ・・・・・」
「え、元に戻す方法はないの?」
「いろいろ試してたんですが、なかなか手強くて。でも、ようやく手段が見つかりそうで」
「何々? もしできることがあるんなら、あたし達も協力するよ」
「はい。もう少し、夕暮れまで待ってみてください」

キッシュは、詰め寄ってくるクーリア達のほうに向き直ると、ふわりと穏やかに微笑んだ。

「反転した泉の性質と対抗するのに、何か適した力がないかと探していたんですが。
 俺が調べてみたところ、夕陽の陽射しが一定の角度で泉の水面に入り込んだときに、もしかしたら泉の力を浄化できるかもしれません」

おお。難しいことはあたしはわからないけれども。とにかく今は、キッシュの言うことを頼りにするしかない。

「嫌だよぅ、もう、あたしのこと助けてくれなんて一言も言ってないじゃないのよ。あたしのことなんてほっといてよ。あたしはこのままでいいの。何もかも面倒くさくて、もう動きたくなんてないから」

あーもう、本当困ったなこれ。
助けてほしい気持ちとは裏腹に、やたらイライラした気持ちがこみ上げて、口が勝手な言葉を紡ぐ。
わがままなことを言うあたしに、リノーラがぽんぽんと頭を軽く撫でてきた。

「はいはいはい、チア、あんたの言いたいことはわかったから。誰もあんたのこと放っておかないから、さっさと元に戻ってまた出発しようね。だから泣かないの」
「おおお・・・・リノちゃんすごい、いち早く見抜いてるわ・・・・・」

いや、ほんと、サーナの言うとおりだわ。これ、ちゃんと元に戻ったとき、あたし泣けるかもしれない。

「嘘つきになる人ほど、元の性格は正直なんですよ。チアさんでしたっけ。きっと本当はとても素直で、よく笑う人なんですね」

キッシュがにこにこ笑ってあたしのほうを見ていた。いや、なんだか超照れる。恥ずかしいな。こんなわがままなあたし。たとえ、泉のせいだとしても。







だんだんと日が傾いて、空の色が徐々に変わってくる。
あたしはキッシュと一緒に、泉のほとりで時期を見計らって待機している。

あー・・・・なんだか頭がぼうっとするなー。世界の色や空の色が、全然違って見えるっていうか。

「大丈夫? 苦しくない?」

おずおずと、キッシュがあたしの顔を覗きこんできた。

「自分の性質が逆になっても、心の奥では、根本的な君の性格が残ってるはずだから。きっと、心と心がぶつかってて、苦しいはずだと思うんだ」

あたしは、唇をつぐんでこくこくと首を縦に振る。
もしかして、あたしは今とても嘘つきになってるのかも。
そうだよっていいたいのか、大丈夫だよっていいたいのか。どちらもあたしの言葉だと思うんだけどね。

「心配しないでね。俺が助けてあげるから。だってこれでも神官だから」
「神官・・・・・・」
「ここから先にまっすぐ北へ行く道をたどった先にある町なんだけど。通称で『水の都』と呼ばれてるんだよ。俺はそこの出身なんだ。聖水を使って、祭事や祝詞を行うのが俺の役」

へぇぇぇ。
それは凄いなぁ。
あーー、わくわくしたいのに、体が何の反応もしてくれない。自分の性質が真逆になっちゃうって確かにこれ苦しいぞ。もっと、心惹かれることにすかさず食いつきたい!
ひとまず今のところ、無反応で聞き流してるけど、これが早く元の自分に戻ることを祈っておこう。


「で、最近ちょっと、おかしなことがあって、この泉のことを調べてくれってことで俺が行かされたんだけどさ。悔しいな、俺がもっと力があったら、もっと早く沢山の人を助けてあげられたんだけど。
 困ってる人を見ると、何かしないではいられないからさ」

長い睫の瞳を少し伏せがちに、キッシュは控えめな口調で囁いている。
ああ、この子、優しいんだなぁ。

「チアのことも、必ず助けてあげるから。心配しないでね」

「おーーーいそこの二人、何ちょっといい雰囲気になってんの」
「泉ずっと見てるけど、何ともないよー? キッシュー。泉が赤くなるときってまだぁー?」

離れたところで様子を見ている、クーリアとリノーラが叫んでいた。

「ああ、そろそろかな。行こう」

キッシュが立ち上がる。あたしはそれについていく。
空は橙色に染まって、夕闇の訪れを招いていた。
傾いた陽射しは朱に輝いて、泉の水面を照らしている。紅く揺れている。
まっすぐに歩いて、キッシュは水面を覗き込みながら立ち止まる。
そして腰のベルトから、聖水の入った小ビンを取り出して。

その時だ。

ざわりと、泉の水面が、震えた。
泉だけじゃない。周囲の空気も、夕闇の陽射しも。

「・・・・・・しまった」

キッシュが小さな声で囁いたのが聞こえた。
いち早く不穏な気配を察したのはリノーラだ。すかさず、懐に隠し持っているナイフを抜き放つ。そして周囲に用心深く視線を配りながら、低い声であたし達へと告げた。

「気をつけな、目に見えないけど、何か近くにいるよ」

それに釣られたように、クーリアも剣を抜いて構えを取る。
夕闇に染まった、紅い水面が細かく跳ねている。まるで魚の群が暴れているときみたいだ。
ばしゃん
何かがその中から飛び出してきた。水飛沫を散らして、一直線にこちらに向かってくる。

「チア、離れて!」

キッシュが手にした小瓶を傾けると、流れた透明な水が、キッシュの指先をたどるようにして、細い剣の形になった。
それを素早く振るうと、泉の水面から跳んできた水飛沫が、ふわふわと宙に浮いて留まる。

「そうか。こんなたちの悪いいたずらするとは。お前は、迷いケルピーだな?」

ひらひら ひらひらひら

泉から跳んできた水飛沫は、空中を舞い跳ぶ虫のようにしばらく宙をさまよっていた。
やがて、水の粒がいくつか集まって、形になる。
蝶くらいの大きさの、ほんの小さな、空飛ぶ馬の姿になる。

『当たり。いいじゃないかよー、こんなちょっとしたお遊びくらい。見逃してくれよ。人間の神官様なんてさ、おかたいなぁ。せっかくいい棲みか見つけたのにな。こんなに面白いこと、そうそうやめられないじゃん』

空気の中に甲高く響く、子供の少年のような声をしている。
ケルピー。ええと。水の中に棲む、馬の姿をした妖精だったっけ。確か。
人間を助けてくれる優しいケルピーもいれば、逆に住処に踏み込んだ者を問答無用で水に引きずり込む凶暴なやつもいる。
あと、こういう気まぐれで悪戯好きなのが、住処を普段一箇所に定めない、迷いケルピーというのがこの種類。
確かそんな感じの話を、昔、ミルサートさんが貸してくれた本の中で見たなぁ。
挿絵で見た水の馬の妖怪は、紅い目をした怖い姿だったなぁ。
目の前のこれは、虫みたいな感じでむしろ可愛いんだけど。
でも、きゃらきゃらきゃらと甲高い声でひっきりなしに嘲り笑う声が、きぃんと耳に響いてこれはいただけない。

「お前のいたずらのせいで困ってるんだ。早く元に戻してほしい」
『おやおや、気弱な神官殿。そうは言ってもねぇ、いいじゃないのさ、このくらいのお遊びくらい見逃してくれたって。見ててとっても面白いしねー?
 僕はいっつも、水に顔を映す人間の顔を見てて思ってたのさ。ああこの顔、いつもと全く逆の表情してたら、きっと愉快だろうなぁって』

冗談じゃない。こっちはちっとも愉快じゃないのよ。
早く元に戻してくれないと困る。

「この不埒な悪徳妖怪! このあたし、クーリアが正義の剣戟で成敗してくれちゃうわ! とりゃあああ!!」

じっとしていることに耐えられなくなったのか、クーリアが剣を回して、空中をひらひら飛んでいるケルピーに向かって突進してくる。
あああ、クーリアったら、また後先考えずすぐ動くんだから!
素早く斬りつける銀色の切っ先が、空中を漂う水の粒の集まりを薙ぎ払う。
透明な水の粒が、細かく霧散して四方に飛び散る。

「無理だよ、そいつに普通の剣で斬っても効かない!」
「えっ、まじで」

キッシュが叫ぶ。

細かく散った水の粒が、すぐにふよふよと空中を流れてきて、もう一度集まってくる。
ばしゃん!
大きな水の塊になって、クーリアの顔面に跳んでくる。

「ぎゃわっ!」

クーリアは後ろのほうにひっくり返った。

「・・・・あ、なんか急に、戦うのがばかばかしくなってきたっていうか♪」

むくりと上半身を起こすや否や、クーリアはそんなことを言って、ぽーいと剣を放り出していた。

「なるほど、こういう効き目か、反転の泉・・・・・・」
「あーもう、感心してる場合じゃないよリノーラ、どうしようチアだけじゃなくてクーリアまでこんなんなっちゃって」

真面目に頷いているリノーラの横で、サーナがおろおろとうろたえていた。得体の知れない水の魔物を前に、戸惑っている様子だ。

「どうするも何も、あたし達がどうにかしてあげなきゃでしょ。ねーちょっとそこの水の神官さま、あたし達は何してたらいい? それとも、あんたに任せて、逃げたほうがいい?」
「そうですね、でしたら、ちょっとケルピーが逃げないように封じ込める結界を作りたいので、その間、ちょっとだけケルピーにいたずらをさせないようにしていただければ」
「うーんと、何かしてこっちに気をひきつけておけばいいってことかいな。まー、できるかわかんないけどやってみるわ」
「ちょ、リノちゃんそんな・・・・・」

軽く安請け合いする返事をするリノーラを前に、サーナが困ったように肩をすくめていた。
えーと、これあたし何してりゃいいのかな。とはいっても、泉の水のせいで、あたしは半端なく無気力な性格になってるので、眺めている以外何も行動できそうにないんだけど。
普段のあたしだったらこういうとき何しようとするっけ。何か手伝おうとして動きたいところなんだけどな。

「あーもー、サーナ、そんなに不安そうな顔しないの。それでも一応エルフでしょあんた」
「いや、そうだけども。こんなときだけ都合のいいこと言ってこないでよリノちゃん」
「はんっ、何それ馬鹿馬鹿しいわ正義なんて、こんなときは自分のことだけ考えてさぁ・・・・・」
「あーーーもうクーリアうるさい! 普段はただの正義バカなんだから、そういうふうになるだろうと思ってたけど、気が散るからいいからじっとしてて! でないと元に戻ったとき怒るよ!」

どうしようかおろおろしてるサーナに、さっぱり戦う気失くしたクーリアに、そのクーリアに怒鳴ってるリノーラ、と。
わーこれ、本当、あたし何もしなくて大丈夫か。

「水ねぇ、そういえばあたし、こんな商品も持ってるんだけどね」

リノーラがごそごそと、荷物袋の中から何か取り出す。
それは、手のひらサイズくらいのオカリナ笛。

『おっと、僕と遊んでくれるっての? へへっ、お前は性格が反転したら、どんな面白い顔すんのかなぁっ』

泉の水面が震えて、細かい水の粒がぽんぽん跳んでくる。そしてまるで羽化した蜻蛉のように、空気を切ってリノーラに向かってくる。
リノーラは指先をオカリナに添えて、唇を当てて息を吹き込む。
ぼぅ、と、かすかな汽笛の音に似た音色が、空気を小刻みに震わせる。その震動が伝わって、ぴたりと、水の馬の跳躍が動きを止める。

『な、なんだこれ、すっげー嫌な気分』
「わぁ、意外と効果あったね。やっぱり持っててよかったこれ」
『なんだと』
「あたしね、昔、ネクロマンサー業とか仕事でやってたこともあるんだけど、これ吹くと悪霊の動きを封じるとか確かそんなんだったわ」
『ケルピーを下等霊と一緒にすんなよなぁぁぁ!!』
「まーあたし、けっこう独学だったし、こういう吹き方すればある程度応用効くかなーって感じで」

リノーラの特技、恐るべし。


「はい、じゃああたしも試みたし、サーナも何か頑張って」
「ええーと」

サーナが戸惑いがちに視線をさまよわせていたけれども、何か思いついたらしい。

「銀糸を織り込んだショール使えば、魔力のある水でも振り払えると思うんだけど」

そして手持ちの荷物をごそごそ取り出し始める。
あ、いい感じかもしれない。

そうこうしてる間、キッシュは泉のほとりに聖水の雫をまいて、ケルピーのいたずらで施された魔力を封じ込めにかかっている。

「結界を作るのと同時に、チアにかかってる泉の魔力を、俺が聖水をかけて解くから。周辺に聖水をまくのだけ手伝って」
「う・・・うん」


空にかかる夕陽が、じりじりと低く低く、傾いていく。
夕陽が沈みきっちゃうと、効果がなくなっちゃうんだって。急がなきゃ。泉のほとりに、ぐるりと、一滴一滴聖水を散らしていく。
だけど。

「あたし、動きたくないな・・・・・・」

手と足が思うように動いてくれない。ああ、なんだこれ、もどかしい。

「頑張って、あともう少しだから」

キッシュの声を、聞こえなかったふりをしようとしてる自分を必死に引き留める。

「あともう少し・・・・・・」
「俺、神官だからさ。だから、俺の力でできることなら、なんでも助けるよ。何もできないなんて嫌だからさ」
「でも・・・・・」

あともう少しで、日が沈んじゃうよ。そうしたらこれ、うまくいかないんじゃないのかな。
ケルピーに逃げられちゃうかもしれない。そうしたら、あたし、もう元に戻らないのかな。
歩きたくないな、何もしたくないなーってそんな嫌なことばかり言って。
このまま何もしなかったら、あたし、死んじゃうかもしれない。
こんな自分のままだったら、あたし、生きてる意味ないって、きっと思っちゃうよ。
それは嫌だ。お願い、助けて。

ぽとりと。
あたしの手から、キッシュから渡された聖水の小瓶が落ちた。ころころと、足元に転がって、中身の聖水が零れてしまう。

「・・・・・・もういいや、諦めた。面倒くさいもん」

嫌だ。違う。これはあたしの声じゃない。

「チア・・・・・・」

刺すような濃い夕焼けの陽射しに横顔を照らされて、キッシュが戸惑った目であたしを見ていた。
ケルピーが甲高くあざ笑う声が聞こえた気がした。

「どうでもいいや。助けてくれなくていいよ」

あたしは、その場でうずくまって、座り込んでしまった。
泉の向こうに、サーナとリノーラがいる。クーリアもいる。
あたしとキッシュが、封印の結界を作る作業をしてると信じて待ってる。
それなのに。

「そっかぁ・・・・あと少しなんだけどな」

キッシュが、あたしが手から落とした小瓶を拾い上げた。
中身、こぼれちゃったかな。
あああ、何をしてるんだろう、あたし。
こんな自分、死ぬほど嫌いだ。

「大丈夫、必ず助けてあげるから、心配しないでね・・・・・」

そう言って、ふわりと笑って。
キッシュは、小瓶の中身の聖水を、あたしに向かって振り掛けた。
額に滴る、ひんやりと心地いい水の感触に、あたしは驚いて目を瞬かせた。

「そうだ、初めからこうすればよかったんだ。まだ結界が出来上がってないけど、先に、チアのほうを元に戻してあげるよ」

もう一つ取り出した小瓶から、キッシュはさっきと同じように、聖水を使って剣の形を作り出す。

「いいよ・・・・いいよ別に、助けなくても」
「さっきも言ったじゃない。嘘つきになっちゃう人ほど、元の性格は正直なんだって。きっとチアは本当は、嘘がつけない人間なんだね。本当は真逆のことを思ってるんだろう」
「別に」
「本当は、一刻も早く助けてほしいって、叫んでるんだよね?」

へたりこんで座ったまま、涙が出そうだった。
そうだよ。こんなの自分じゃない。口から出る言葉も、体の重さも、凄く苦しかったの。

「ケルピーをとっとと仕留められなかったのは、あいつにもっと早く気づけなかった俺の責任だからね・・・・・・本当にごめんね。俺もその苦しさ、すごくわかるよ。
 だからチア、もう少しの辛抱だから、信じて待ってて」

聖水の剣を構えて、キッシュはあたしのほうを向いて瞳を閉じた。
そして何か唱え始めた。祈りの言葉のように聞こえたけど、難しい言葉であたしにはあまり聞き取れない。
穢れた水よ、浄化しろ。そんな意味の言葉みたい。
ばしゃん
ふいに、水が弾け散る音が耳元で聞こえた。
キッシュの手にしている聖水の剣が、形を緩めて元の水の姿になって、あたしの額から全身に流れてきた。
清々しい水の匂いだ。
額に頬に、髪に、首に、手に。水の雫が流れて滴り落ちる。

あたしは水の匂いにむせながら、前髪に滴る雫を振り払って顔を上げた。

途端に目に飛び込んできたのは、空の夕焼けの色だった。
紅く紅く染まる泉の水面。
宵の空の色が深く染まって移ろいゆく。射るような金色の真っ直ぐな光。

ああ、空の色って、なんて綺麗なんだろう。

「綺麗・・・・・」

傾く夕陽の光を受けて、聖水に濡れたあたしの手のひらが、きらきらと、砂金を拾ったみたいに輝いていた。
眩しくて眩しくて、涙が出そうになる。
そして、紅く染まる泉の水面が、波打つビロードの絨毯のようだ。

目の前には、キッシュが立っている。
白い衣装のケープの裾をはためかせて、深い青色の瞳を瞬かせていた。

「――― 助けてくれて、ありがとう!!!」

自然と、あたしはそう叫んでいた。何も考えなくても、自分の顔に満面の笑顔が浮かんでくるのがわかる。
あたし、動ける。普通に歩いたり走ったりできる。いや、むしろ、そうせずにはいられない。じっとしてなんかいられない。
空の色が綺麗だから、胸が震えるし、動いていたくなる。傍にいる誰かが笑ってくれるなら、あたし、何だって頑張るよ。
ああ、あたし、元に戻った!!
そうだよ、これが、いつものあたしだよ。
すうと深く胸に息を吸い込んで、くるりと泉のほうを振り返った。二人がいるであろう方向に向かって、ぶんぶんと力一杯手を振った。

「サーナ!! リノーラ!! もう少しだけ待っててね、すぐ助けに行くからねーーー!!!」

思いっきり叫んだあたしの声は、二人に届いただろうか。
そしてすぐに、飛びつくようにしてキッシュのほうに向き直る。

「まだ間に合う?! まだ、陽は沈んでないよ! あたし、何すればいい?! 教えて!! あたし、何でもやるから!!」
「あ、ああ。泉のほとりに残りの聖水をまいて。結界を今度こそ作り上げる」
「わかった!!」

キッシュからひったくるようにして聖水の小瓶をもぎとると、すぐさま駆け出して、聖水の雫をまきに行く。走ると、あたしの背中で、マントがばたばたとはためいた。
慌てすぎると零しちゃうかもしれない。慎重に。だけど急いで。陽が隠れちゃうまでがタイムリミットだ。心臓がどきどきして息が切れそう。お願い、間に合って。

『ちくしょう、あいつら、こそこそと勝手なことを!』

ケルピーが、甲高い声でいなないた。

『元に戻ったっていうんなら、また泉の水をぶっかけて、正反対の面白い性格にしてやるよっ』
「・・・・・・いいや、そうはさせないさ。もう準備できたから」

キッシュが低い声で囁いていた。

「もうこれ以上、変ないたずらなんかさせないからな、迷いケルピーめ」

すらりと振りかざした聖水の剣が、ちょうど沈みかけた夕陽を受けて、ルビーのように真っ赤に輝いていた。
その切っ先が、素早く泉の水面に斬りつける。
紅い夕陽を反射した水面が、石のつぶてを一面に投げつけたように細かく激しく揺らいだ。

『ちぇー、面白かったのにぃぃ』

きゃらきゃらと、甲高く笑う声が響いて、次第に消えていった。
どこかへ逃げてしまったのか、それとも消えてしまったのか、どうなったのかは知らない。
あとは、日が沈んだあとの薄暗い静寂と、鏡のように平らになって、しんと静まり変えた泉があった。

「あーーー、ようやく片付けられた・・・・・・・」

キッシュが、疲れきったような力の抜けた声で、ぽつりとつぶやいていた。

「おーい、チア〜〜、ケルピー追い払えたの? 大丈夫??」

そこへ、サーナとリノーラ、クーリアも駆けつけてきた。
どうやらクーリアも元に戻ったらしい。笑。しっかりと自分の剣を抱きかかえて、握りしめた拳をわなわなと震わせていた。

「あーーーもーーー、あたしとしたことが、あんなことで不覚をとるなんて!! 本当許せないわ!! 
 剣士としての魂みたいなものである自分の剣を、容易く放り投げちゃうなんて、ああああ、むちゃくちゃ腹立つ!!!」
「はいはいはい、よかったね、元に戻って」
「あ、そういうチアは大丈夫? ちゃんと元に戻ってる??」
「うん! ばっちりだよ!! ほーらこのとおり!! めっちゃ飛んだり跳ねたりできちゃう」

なんて言って調子に乗って、両手をぐーにして振り回しながら、その場でジャンプして見せた。背中のポニーテールが勢いよく、鞭のようにぴしゃりと跳ねる。
ああ、素直に動けるって幸せだなぁ。しみじみ。

「あああ、やっぱりチアはそうでなくちゃー! おなかすいてない?! ほーらほら、ビスケットあげるよ、飛びついてみなーほれほれ」
「やだもうクーリアったら、あたしをお菓子で遊ばないでよ」
「ほれほれー」
「ぱく。もぐもぐ」
「ほーら食べたー。いい子いい子」
「んふー。おいひい・・・・もぐもぐ」

「・・・・・・黙ってみてりゃあ、うっせーんだよそこのアホ面の女ども!!」

じゃれあっているあたし達の方に向かって。
唐突に、口汚い罵声が飛んできた。
思わず驚いて、前につんのめりそうになって、声のしたほうを振り返る。

「ったく、何だって俺がこんなことしなきゃなんねぇんだよ・・・・・。人に礼の一つも言わず、わいわいきゃっきゃ、楽しそうじゃねーか。いい気なもんだなオイ。
 神官だからって、人を助けるのが当たり前だと思うなよマジふざけんな」

一瞬、誰がそこにいるのかと思った。いや、ほんと。誰? 
イライラとした仕草で、白いケープの裾をばさりと払って、ぱたぱたと白い衣装の埃の汚れを手で払い落とす。
丸い帽子を頭に被りなおして・・・・深い青色をした瞳が、じろりとこちらを睨みつけた。どちらかというと女の子のような可愛らしい顔立ちをしているのだが、その割にはあまりにも似つかわしくない、険呑な目つきをしていた。
栗色の髪の先からは、ぽたぽたと、聖水の雫を滴らせている。

「あーーーー、これでやっと元に戻った・・・・・。もうマジ死ぬかと思ったぜ・・・・。あんのケルピー野郎、よくも俺にこんな屈辱的な振る舞いさせやがって・・・・・。
 今回は追い払ってやったけどな、もしまた遭遇したら、あいつ絶対一滴残らず清めて蒸沸させて消し去ってやるマジふざけんなこの野郎。
 だいたい、何だって神官だからって、俺がこんな面倒くさい役請け負わなきゃいけねーんだよ。マジかったりぃし」

あのーーー??? もしもし???

「あ、あのー・・・・・・、キッシュだよね?」
「そうだよ。見りゃあわかるだろ。俺がお前を助けてやったんだぞ、その恩人の顔、5秒でもう忘れたってのかよ。この小動物系チビ」

ぐさぐさぐさ。
・・・・・・・完璧に、さっきまでとは180度別人な感じの、凄まじい口の悪さだわ。

「・・・・・・・・・・つまり、キッシュも、泉の水で正反対の性格になってたってこと? なのかな」
「そうだよ悪いかよ。あーーー思い出すとめちゃくちゃ腹が立って怖気が走るな。俺があんな丁寧で優しい言葉吐くとか、マジ俺じゃねぇし。死にたくなったし。やっと元の自分に戻ってせいせいした」
「・・・・・・・・・うそぉ」


さっき、あたしに向かって、「必ず助けてあげるからね」って言って優しく微笑んでくれたキッシュはどこへ行ったんだろう。
あの穏やかな性格が、普段のキッシュと真逆の性格だとしたら、常時の彼は一体どんな性格してるっていうの。


「ま、俺、神官だからさ、ちょっとだけ、人にはできないようなことできるんだよ。いいだろ。
 だからって、当たり前みたいな顔して『お助けください神官様』なんて言ってすがってくる、都合のいい人間が、大っっっ嫌いなんだよね。
 よっぽど自分の気に入った人間でないと、祈ってなんかやらないし、聖水だって分けてやんねぇしさ。
 お前を助けてやったのはたまたまだから、勘違いすんなよ」

キッシュはそんなことを言いながら、にやにやと意地悪げな笑みを浮かべてあたしの顔を覗きこんでくる。

「うーん、困ったなぁ。それでも・・・・・」

あたしは肩をすくめて苦笑した。
びっくりしたけれども、やっぱりこれしか言えないや。

「それでも、助けてくれて本当にありがとう。キッシュがあたしのこと、必ず助けるからって、優しいこと言ってくれたのが、とっても嬉しかったよ」

にこりと、キッシュに笑いかけた。
途端にキッシュは、面食らったような顔になって。
・・・・あれ、心持ち、顔が赤くなってるのは気のせいだろうか。それとも夕焼けの名残だろうか。

「バカじゃねーの。だからさ、助けてやったのは別に、目の前に罠にかかった人間がいるのに、助けられないと思われたら、水の都の神官の名が廃るって言うか。
 要するについでだよついで! 自分が泉の罠にひっかかってなかったら、特に無視してそのまま元に戻らなくったって気にしないんだからな」

うーん何だろう、何を慌ててるんだろう。
これはもしかしたら、キッシュは口が凄まじく悪いけれども、性格まで本当にひねくれてるわけではない?

「キッシュって、素直じゃないってよく言われたりしない?」
「言われねーよ!! ただ、思ってることと逆のことわざと言ったりすることが多いだけだよ!! 勘違いすんじゃねぇ!!」

ほほう。それはつまり素直じゃないと。

「てことは、普段思ってたことを素直に言わないなら、さっきまで性格が反転してたときは、けっこう、思ったこと素直に言えちゃったりしてない?」
「・・・・・・・・・・・!!!」

あら、なんか。これ面白いかもしれない。
キッシュが、なんか凄い憎らしげに睨んでくるんだけど、なんでかな。不思議とあたし、その表情が憎めないものに見えてさ。

「へへ。キッシュ、助けてくれてありがとう」
「うるせーーよ!!! 面倒だけど、神官なんだから、助けないわけにはいかねーーだろ!!!」


ああなるほど、要するに口が悪くて、素直じゃないんだな。だんだん見えてきた。
あたしとキッシュの会話を見ながら、サーナとリノーラが、面白がってる感じで薄笑いを浮かべてこっちを見ている。クーリアはよくわかってなくてきょとんとしてるけど。


「よし♪ あたし、キッシュのいる水の都に行ってみたいなぁ。連れてってよ」
「はぁ?!」
「いや、面倒とか言いながら、なんだかんだ言って、本当は神官の仕事好きなんでしょ」
「なんでそうなるんだよふざけんなよ、マジ大っ嫌いだよ。普段はさぼって逃げてばっかいるよ。あんな都もう帰らなくったっていいぐらいだよそのほうがせいせいする」
「いやー助けてもらったお礼もしたいし」
「いらねーし! そんなみみっちいこと言うような男に見えるかよ俺が!」
「ほらさっきと言ってることが違うじゃない。助けてもらうのが当たり前だって思うなよって言ったじゃない」
「言ったけどよ!!」


だんだん話してるのが楽しくなってきてしまう。
自分が一番自分らしくあるのが一番いいってこと、自分の思ってることと違うことをしたり言ったりしてしまうのが、すっごく苦しいんだってのがよくわかったよ。しみじみ。
キッシュの場合はどちらだろうな。
だけどあたしには、あたしのことを一生懸命助けようとしてくれたキッシュの言葉が、まるっきり嘘だと、真逆だとは思えないんだ。
そう思っていたいな。

「おーいキッシュ、夕飯に野菜スープ作るけど、嫌いなものとか食べられないものとかないー? あたしら何でも好き勝手放り込んで煮込むからさ」
「ちょっと待てよなんで俺がてめぇらと一緒に夕飯つつく流れになってんだよ?!!」
「え、だって日が暮れちゃったしどうせ野宿でしょ?」
「おとなしく素直に一緒にご飯食べよーよ。リノちゃんの作る野菜スープ、めっちゃ美味しいよ?」
「てめぇらの世話になんかならねーよ!! もし魚とか入ってたら絶対食わねぇからな!!」
「魚無しでね。はいはいはい」
「ねー、甘いものは好きー? お菓子もあるよー」


日が暮れて、灯る焚き火の音が、賑やかにおしゃべりを始める。









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(2013/8/)

 
 

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