「欠けた機械の空想談義」



旅をしていると、クーリアがふと立ち止まる。
何か奇妙なものを見つけたらしい。

「ねぇねぇ、チア」
「えっ、なに、野苺でも実ってた? 食べる食べる」
「うーん、残念ながら違うっ」

あたしがとっさに返事をすると、クーリアとサーナが苦笑いした。

「食べることしか頭にないんかい」
「いやー、クーリアがわざわざあたしに呼びかけるなんて、何かいいものあったのかなって思って」
「野苺じゃないけど、チアが面白がりそうなものかなって思って」

と、指先でつまみあげて、手のひらに乗せて見せたものは。
歯車が組み合わさった、機械の部品のようなものだった。

「おおー、これ、なんだろ」
「何かの部品かな」
「そりゃあ見ればわかるけど」
「これだけじゃあ、何かわからないねぇ。修理のしようもないよね」

細い指先で、サーナは部品を撫でながら、困ったように笑って首を傾げる。
都町育ちのクーリアにも、機織りの町出身のサーナにも、これが何の部品なのか思い当たるものがないようだった。
部品は金属でできていて、赤茶けて錆びついている。指で擦ると、ざらりとした表面で、錆が指先に黒く残る。ここ最近の落とし物ではないと思う。少なくとも、地面に放置されてから、数年は雨ざらしになっている気配がした。

「よし、そろそろおなかもすいたところだし、これが何の機械なのか、三人で妄想しながらランチタイムにしよう」
「さんせーい」


石を拾ってきて寄せ集めて、即席の竈を組み立てる。
小枝を集めて、火を熾す。
その上にお鍋をかけて、スープを作る。
周囲を見渡して、食べられる野草を摘んでくる。
さすがに慣れたものだわ。うーん、スープがいい匂いする。今日の具材は干し魚と香草を煮込んだスープだね。

「あたしが思うに、もしかしたらこれは、古代の文明の機械じゃないかと思うのよ」
「何それかっこいい」
「でも古代の文明って何?」
「そこは適当に妄想しておこうよ」

パンを枝に刺して、火にかざして軽く炙る。香ばしい匂いが立ち込めて鼻腔をくすぐる。このパンにチーズを乗っけて一緒に食べるとめちゃくちゃ美味しい。手のひら大のパンだけど、二口ぐらいで一気に食べちゃうぐらい美味しい。
サーナがパンにナイフで切れ目を入れていたから、もしかしたら、魚の切り身と香草を挟んだサンドイッチにする予定かもしれない。ああ、想像するだけで口元がだらしなく緩む。きゅうう、っとおなかが呻いた。火の粉が小さく爆ぜた。

「ええとじゃあね、もしかしたら、魔法使いが作った機械人形かも。命令すればなんでもいうこと聞く、召使の機械かもしれないよ」
「わーそれも素敵」
「じゃあ、なんでこんなところに部品が落ちてるの」
「魔法使いとドラゴン族が戦争になったとき、機械人形は兵士の役目を担って戦ったのよ。でも、ドラゴンが操る雷に穿たれて、機械人形は粉々になってしまったの」
「ああ、そんなお話、泣ける」

三人で好き勝手話してるけど、全部妄想だからね。妄想。楽しすぎる。

「もしかしたらね、今歩いてるこの道をずーっと歩くと、機械職人たちが住む街があって」
「うんうん」
「それは秘密の機械だから、普通じゃたどり着けないところに街の入り口があるんだよ」
「たとえば?」
「普通は岩にしか見えなくて、誰も気づかずに通り過ぎるけど、よく見るとブリキの鍵を差し込む隙間があって、鍵を使うと、からくり仕掛けで扉が開くの」
「きゃーー、胸がときめくねっ」

「あっ、二人とも、そろそろスープできたよー」
「きゃああしまった! こっちのパン焦げてるー!」
「あーーー、おしゃべりに夢中になりすぎたね」

さてさて、ランチタイム。

「この道をまっすぐ行けば、そんな街にたどり着くと思う?」
「秘密の扉は見つけられないかもしれないけど、何か知ってる人はいるかもしれないよ。この部品の謎が解けるといいね」


ああ。パンが美味しいなぁ。
今日ものんびり、旅は続く。







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(2017/5/7)
何だこれは。
機械のお話を書こうとして思い付きでした。




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