恋を叶える招き猫のお話

これさえ手に入れば、私の願いは叶うはず。
そのためなら、どんな手段だって……。
ううん、やっぱり駄目。そんなことをしたら、この身にどんな危険が及ぶかわからない。
でも、ここで諦めるくらいなら……。
そうだ。そうしよう。どうしてこんな簡単なこと思いつかなかったんだろう。
壊してしまえばいい。
これさえ、この世界から消えてしまえば……。





「わがはいは招き猫である」
「はいはい。またなんか言ってる」
「るっせぇな! 横から変なツッコミ入れんじゃねぇよ! とりあえず仕事モードに愛労と思って精神集中させてんだから!」
「そんなこと言ってもねぇ……。今日もあいにく閑古鳥じゃない?」


「失礼いたします、招恋堂はこちらでよろしいでしょうか……。ご依頼を申し上げたく参りました」
「依頼? うちは雑貨屋で、便利屋じゃないよ」
「ええ、承知しております。本日は我が主の命により、とあるものをお貸しいただきたくお願いに参りました。譲ってほしいなどとご無理申し上げませんので、ほんのしばしの間手元に置かせてもらうだけでかまいませんので。もちろんお代は十二分にお支払いさせていただきたい」
「借りる? まぁ、うちにあるものでよければねぇ、正直売れなくて困ってるものばかりだし」
「で、どれが欲しいの」
「それは貴方です。幸福の招き猫、もとい、猫神ユメミ様」
「………はい?」




説明しよう。いわゆる「猫神」とは。
古来よりこの国に生息している、猫族の呼び名の一つである。
二足歩行で歩き、ヒトと同じ生活空間に置けば、半年程度で問題なく日常会話程度の言語を理解し、使用する。ヒトとほとんど変わらない手足、体格をしているが、耳は顔の横ではなくこめかみのやや上の位置の頭部に存在し、毛の生えた尖った三角の耳が前向きに付いている。
人の髪と同じように頭部に体毛を生じているが、その毛並みは首筋から背中にかけて残っており、腰の下あたりには柔らかくしなやかな尾っぽを持っている。
大きさもヒトより心もち小柄で、成獣しても八十〜百二十センチ程度の体長である。
歴史上において、過去には何度か乱獲や阻害の憂き目にあい、絶滅寸前に追い込まれたこともある生き物だが、現代社会においては、ペットショップがうまく仲介して広く保護され、人の生活空間の中に適応して生活している。
特に昨今では、一部の地方の神社に言い伝えられてきた「猫神信仰」「招福猫」信仰と結びつき、企業から一般家庭に至るまで、縁起物として猫を飼うところが増えている。

「まぁそんなこと言われれも、猫は猫だと思いますけどね」
「いいじゃないですか別に。猫族は人より一日の睡眠時間がやたら長かったり、ちょっと人より体力が劣るもので、自分で就職口先探して食い扶持稼ぐのもなかなか大変なんですよね。それよりも、招福の招き猫として置いてもらって、ゆったり可愛がられて暮らすのが断然楽な生き方じゃないですか」
「ネズミ狩りもそんなに必要とされないもんね……。もっとも、狩ってこいなんて言われても全然やり方わかんないし、ハムスターやリスを見ても可愛いと思うだけで、これを食べたいなんて気持ちは起こらないし」

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