『灰色の海』



人魚姫に会えると思っていた。
到底そんなもの、ただの御伽噺だったのですね。

灰色に濁った海を見つめながら、言葉も無くただ立ち尽くしていた。
ゆらり、と、上空に白い翼が翔けているのが見えて、私は左腕を前方に差し出した。
腕を止まり木代わりに、相棒は悠々と空を切った後にようやく羽を休めた。

「お疲れ様、ジュア」
「何、このくらい、たいしたことないさ」
「お前の白い羽が汚れてなければよいのだけど」
「そんなヤワじゃないよ。このくらいの空気の毒なんか」

白い羽と白い嘴を持った宙舞鳥は、嘴を上下に振って答えていた。

「どうだった。海の向こうの大陸は」
「ここと同じようなものだったよ。空も水も海も、全部、この酷い匂いのする毒に汚染されてしまってた・・・想像以上だ。あの魔物のせいだ」

海の底から這い上がってきた、古代の魔物が度々出没するようになった。
魔物は酷い悪臭の、毒を含んだ息を吐き、海の中にも毒を撒き散らす。
退治することは困難で、みる間に海も空もあっという間に灰色の泥のように澱みきってしまった。
恐ろしいことに、魔物はここだけではなく、近隣の国にも同じように出没しているらしい。

「精霊魚の死骸が、港にうちあげられているそうだ。痛々しいことだ。本来なら蒼水晶のように澄み渡った海だったろうに」

懐から、小さな瓶を取り出した。
この薬を海にまけば、この灰色の毒は浄化されると。





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2013/1/19

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