『恥じらいの舞姫』




客席はもう埋まっていることだろうか。
舞台の両脇に灯している松明の火が紅く閃いている。

「やっぱりフィアハだ。来て良かった」

聞いたことのある声が聞こえて、弾かれたように振り返る。

「エーティム・・・!」

にっこりと穏やかな微笑みが、赤面するフィアハを見つめていた。

「どうしてあなたがここにいるのよ」
「あのくらいの怪我どうってことないよ。今日は君が踊ってくれるんだよね。楽しみだなぁ」

エーティムが心から嬉しそうにそういうと、フィアハは泣き出しそうなくらいうろたえていた。

「あたし、踊り子はもうやめたはずなのよ。今のあたしは剣士なんだから。あなたにはあたしの舞台なんか絶対見られたくなかったわ。お願いだから帰ってよ」
「どうしてだよ。楽しみなのに。きっと綺麗だよ、フィアハ」

フィアハは舞台衣装の姿で、すでにもう引っ込みがつかない。

「・・・今日だけよ。明日になったらあたしはまた。あなたの仲間の一員だからね」
「もちろんだよ、当たり前じゃないか」

小さな声で、ばか、と呟く。
聞こえたのか聞こえてないのか。

まもなく舞台の幕があく。

紅い花のように舞い踊るフィアハの姿があった。
客席にエーティムを見つけると、ほんのわずか踊りはぎこちなくなった。

そんなフィアハを見つめながら、エーティムはなんだかとても幸せな気持ちになった。

楽しい夜を過ごそう。
明日からはまた、冒険の日々が戻ってくるのだから。







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2013/2/1

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