『人形メイドの、温かい手。』






家族がほしかったのよ、私。
父とか母とか、そういう名前がつくだけのものじゃなくて。
私の存在を認めてくれて、私の話を聞いてくれて。
私の寂しい心を満たしてくれて、あったかい気持ちにさせてくれる。

ほしかった。そんな、誰かが。
そんなにおかしなことだっただろうか。

怪しい骨董品店でたまたま購入した人形に、そんな家族がほしいってお願いしたの。
何故か人形は、可愛い女の子のメイドさんになった。
別にそんなものがほしかったわけじゃなかったのよ。
私、子供の頃から厳しくしつけられたから、たいがいのことは、一人でなんでもできるのよ。

頭が痛くなっても我慢できるし。
風邪引いたって、一人で処置できるし。
てきぱきと事務的に、風邪薬を飲んで、寝てるだけ。

「お具合はいかがですか?」

人形メイドが部屋に入ってきた。
温かい湯気の立つ小さな鍋を持っている。
食欲なんかてんでなかったけど。
鍋には、美味しそうなうどんが入ってた。

彼女の手が、私の額に触れた。

「まだ熱がありますね。ゆっくり休んで、温かくしてくださいね。ひとくちでも食べて、元気になってください」

人形の手って、こんなにあたたかいのかな。
まるで、お母さんみたいだ。
初めて、人形メイドの行動が、じんと胸に熱く染みた。
私、家族がほしかった。
そっと起き上がって、うどんに箸をつける。
不思議と穏やかな気持ちになる。
涙がぽろぽろこぼれた。






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2013/2/6

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