『手足を引きちぎる神 』
むせかえるような、ローズマリーの香りがした。
「嫌だよ・・・死にたくない・・・」
寝台に横たえられて、体中に包帯を巻かれた少年は、掠れる声で呻いていた。
もがこうにも足掻こうにも、そうするための手足はもう残っていなかった。
深い傷から壊死が広がり、手足はもう、肘から上の肩の部分と、太腿の中ほどからしか無い。
なんという、酷いことを。
少女にできるのは、化膿止めの精油を塗り込むことだけだった。
苦痛に涙を流す弟の姿に、自分自身も体か引きちぎれるような心地がする。
「もしこれが神の所業だというのなら・・・私は神を憎むわ」
決して許すものか。
怨みに身を焼いて、運命を呪う悪魔に替わってもかまわない。
どろりと、精油を溶かした油が、指先から滑って流れ落ちる。
その匂いさえかき消すほどの、人間の肉が腐り落ちる匂い。
ここは地獄の果てなのか。
人間を人形のように引きちぎり、壊して遊ぶのが、私達が神と今まで呼んでいたものなのか。
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2013/2/6