『透明になった翼 』



博士、空を飛ぶ羽は完成できそうですか?
ええ、見てください。実験の成果は順調です。
空の様子を、少しだけ先に観測してきますね。
上空、3000m……、4000m…、4500mを越えました。
層雲が流れていきます。天候は良好です。少々風が出ているようですが、広く澄み渡り、視界は良いようです。
飛び立つ台はどうしましょうか。山の岩壁にでも設置しましょうか。ここから眼前の世界を見渡して、風を切って空に飛び上がったら、とても心地が良いでしょうね。

これは、世界の歴史が変わる瞬間じゃないですか?
人類はとうとう翼を手にいれて、自分の体で空を飛ぶのです。
白い風切羽の、空を翔ける機械。
太陽の熱で蝋が溶けてしまう神話ではないのですよ。

さぁこれからいよいよ飛行実験の開始ですか。
我々もそれを見届けることができればいいのですが。

風になろうとした、その結果が、今なのでしょうね。
透明になって、空に消えてしまった我々の体は。





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2013/2/12

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