『ガラスビーズ・タワー 』



時計の針は、正午12時を差している。


実は僕は、およそ9時間くらい今のこの作業を続けている。
正直こんなに熱中してしまうとは思っていなかったので、自分でもびっくりだ。

僕の前には今、サイコロ大の色とりどりのガラスビーズを積み上げた、長方形の細長い搭が出来上がっている。
そもそもなんでこんなものが、袋いっぱいどっさりと、僕の部屋なんかにあったんだっけ。
ああ、手芸クラブに通ってる姉が、キルト布細工の飾り用に、注文購入したのを一時預かってるんだったっけ。いや、そんなことは今、どうでもいい。
四角いガラスビーズを積み上げる指先に汗が滲む。そー・・・・・っと息を止めて、一つずつ積み上げる。
ガラスビーズで出来上がった、搭は着実に積みあがって、部屋の中にそびえたっている。

深夜の自分自身に問いたい。夜眠れないなぁと思っていたのは事実だが、なぜ、ふと思いつきでこんなカラフルビーズタワーを積み上げようと思ってしまったのだろう。
一粒の形がちょうど綺麗な正方形をしていたので、本当にただの思いつきで、これを真っ直ぐ積み上げたら、この一袋でどのくらいの高さになるだろうと、そんなひらめきだ。
まっすぐに積み上げるのは無理だからピラミッド型にしてみようかとまず思い、それも難しいから、ばらばらととりあえず、バランスタワーのごとくに積み上げている。
意外とそれが、すぐ足首の高さになり、やがて膝の高さになり、気がつくと・・・・窓の外が明るくなって夜が明けていた。

僕は何をやっているんだ。よっぽど暇人か。
しかしここまでうまく積み上げると、後には引けない心地になってしまっている。なんという手先が器用選手権。一人でドミノ甲子園に近いものに挑んでいるような心地だ。

そのとき、窓の外で、鳥が羽ばたく音が聞こえた。
外に見える、向かいの家のベランダに、カラスが二匹止まっているのが見える。
黒光りする鳥の目は、僕が積み上げたガラスビーズタワーを狙っている。
はっ。
カラスというのは、キラキラと光るものが大好きだ。
まさか、狙っているのか。
僕が暇つぶしで積み上げた、小さなガウディ建築のカラフルタワーを。いや、まさかな。仮にそうだとしても、窓ガラスを閉めている。ここまで来るはずがない。

そんなことを考えていたのも束の間。
二匹のカラスが、撃ち放たれた弾丸のごとくに、窓ガラスを突き破って物凄い勢いで部屋に飛び込んできた。

パリーーーーーーーン!!!

窓ガラスの破片と摘みあがったガラスビーズタワーが、凄まじく部屋いっぱいに散乱した。
ぎゃあああああああああ!!!!

思わず僕は、部屋にひっくり返って大絶叫だ。

ガラスビーズの中で、僕は不思議なものを見てしまった。
カラスの色が、真っ黒な色から、夢物語の絵本のように、色鮮やかな虹色の鳥に変わっていた。
代わりに床には、透明なガラスと、黒いビーズが散らばっていた。

あっけにとられる僕を置いて、虹色の鳥は二匹それぞれ、開け放たれた窓の外へ飛び立って消えていった。

砕け散った儚い夢の欠片が残った。僕を置き去りにして。








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2013/2/19
30分 1337字


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