『七変幻貴石アレキサンドライト』



宝石を眺めてると、なぜに、こんなに胸がざわめくのだろうね。
ああ、これは失敬。
素敵なお店を見つけたので、つい足が赴いてしまったよ。
お嬢さん、あなたがこちらのご店主かな? それにしてはずいぶんお若いようだが。いやこれも失礼。品定めをする目に、年齢や外見なぞ関係のないことだ。
そして、こちらの石を少し見せてもらいたい。これはトパーズかな。なんて美しい色だろう。
違うかな、ああそうか。これは色を変えるアレキサンドライトだ。
こうやって話しているわずかな間にも、みるみる多様な色に姿を変えるのだろう。
変わらないものなどないと、皮肉に笑っているかのような宝石だ。
石、特に貴石というのは、百年や千年、永い時間を輝き続けるからこそ価値があるものだろう。
そのはずがどうしたことか。まるでこぼれ落ちる砂時計、色の目まぐるしく移ろう夕焼けのような姿は。
ああ失礼。お嬢さん、再度尋ねてよろしいか。
先程、こちらの店に足を踏み入れてお見かけしたときより、あなたがいっそうお若く見えるのは気のせいだろうか。
まぁ仕方ない、どうやら外の空の色も、私が来たときとは違ってしまっているようだ。
しかし、これだけはやはり言っておこう。
宝石を見ていると、なぜに、こんなに胸がざわめくのだろうね。
ずいぶんと懐かしいものを見つけた気がするよ。
これもまた運命だろう。
移ろう色彩の不可思議な宝石。





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2013/3/11
15分 598字 




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