『透明標本』




僕は夏休みの自由研究として、『透明なもの』を収集するというテーマを考えた。
まずは、ガラス張りの標本ケースを用意した。
それから、蜻蛉の羽を沢山集めた。綺麗だったけど、これはあまり透明ではないような気がした。
青空に向けて写真を沢山撮った。空気は透明だと思った。
だけど、空気や風だけを写真に撮ることはできない気がした。その向こう側にある景色や、くっきりと青い空の色が写真に出てしまう。
僕は、山にでかけて、よく澄み渡った川の写真を撮ることにした。キラキラと水面が反射して水が流れている水流は、これはきっと透明に見えるだろうと思った。
そうして頑張って写真を撮ったけど、水の中を泳いでいる魚や、川底の石が水の底に映っている。
惜しいけれどもまだ完全に透明とはいえない。写真と一緒に、瓶の中に川の水を詰めて持って帰った。
あとは何を探そうか。それ以上集めたいと思うものが思いつかなくて、僕の自由研究は行き詰ってしまった。
透明なもの。透き通ったもの。目に見えないもの。形のないもの。手に触れることができないけれどそこにあるもの。僕はひたすら考えた。
結局空の写真を沢山撮って、風や雲を撮って並べていた。
時間や心といった名前をつけて、標本ケースに入れて提出しよう。
たとえば運命とか。そんなラベルを貼ろうか。きっと透明なものだ。そうするといろんな色が透けて見えてくる。




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2013/3/31
15分 583字




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