『親愛なる駄作作家様へ。』


一つ忠告しておこう。
僕はね、紙の上に記されている文字を、盗むことができるんだよ。
開いてない書物も、手をかざしただけで、白紙にしてしまうことだってできる。
つまり君の書いた物語を、まっさらに消してしまえるということだ。
驚いた?
まさかそんなことはないなんて思うかな。
そうだよね、君がそんなに一生懸命、草稿に手を加え続けて、インクが滲むくらい、ペン先を走らせて、ようやく綴った作品だ。
消してしまいたい?
いいや、それは本心ではないだろう。
物書きをする人間は、きっと自分の書いたものを、誰かに読んでもらいたいと思ってるはずだよ。
誰にも知られずに、消えてしまうなんて、それ以上に悲しいことはない。
だったら、さあ、その本を僕に貸してごらん。読んであげるよ。
もう一つ忠告しておこう。
君がもしそんなに自分の書いたものに自信がないのなら、君が本心で駄作だと認めている場合だけ、僕はその情けない文字の羅列を、そっと白い紙の間に葬ってあげよう。
僕がもし、拙い文字の中に、君が込めた感情の色合いを見つけることができたなら。
この本は、僕が大事に預かっておくことにする。
君が心から満足できる文章を書けたら、そのときに、この習作を君のもとに返そう。
誰かの心を動かすような物語が書けるといい。
稚拙な文章だと嘆くなら、破り捨てる前に僕のもとへ持ってくればいい。
何度でも、清々しい白紙に戻してあげよう。
次の作品を楽しみにしているよ。







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2013/4/25
15分 617字 





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