『緊急事態(仮)』





長く重い沈黙に、とうとう決着がついた。

「・・・・ど、どろふぉー」
「うおおおお!!!」

なぜ、このくそ暑い中で、わざわざUNOなんかやるハメになっているのか。
サマーキャンプなんて聞いたから来たというのに。なんなんだこの展開。

「だいたいさー・・・熱中症になりかけながら、炎天下の中歩き続けてさ、山道に入ったら、嫌ってくらい蚊に刺されてさ。
 脱水症状起こすんじゃないかって寸前でようやくバンガローにたどりついたと思ったら、カレー作る調理器具も無いし、キャンプファイヤー一式も全部忘れてるし、ボート遊びできるような川も湖も何も無い。
 虫除けスプレーまきながら、屋内でカードゲームってさぁ、これ、わざわざ山にくる意味あったの?
 しかも男ばっか4人も集まって、マジで暑苦しいったら」
「言うな、それを言うな・・・」
「そうだ。全ては夏の暑さのせいだな」
「お前が場所下見してなかったからだろ」
「てめーだっていろいろ忘れてたじゃん」

ああ、なんだこの、不毛な青春の一ページ。

「花火は持ってきてたっけ」
「ああ、あるある」
「よっしゃ、じゃあ暗くなったら、そいつでパーーッと」
「線香花火だけど」
「盛り上がらねぇよ!!!」

ノリ突っ込みが決まって、コントかよ。

「まぁ待て、どんな緊急事態でも、ここは知恵を絞って力を合わせて」
「キャンプが盛り上がらないというのは緊急事態か?」
「うん、十分に緊急事態だな」
「だな」

「そうだ、じゃあ緊急事態という設定で考えよう」
「んん?」
「たとえば、夜になったら急に雲行きが怪しくなって、集中豪雨が起こったとする」
「花火できなくなるな」
「それはまぁ置いといて。花火やキャンプファイヤーどころじゃない、テント貼ってる近くの川が物凄く氾濫してきたとする」
「テントじゃなくてここはバンガローだな」
「ついでに言うと川も無いよな」
「たとえばの話だからもっとキャンプ真っ最中で楽しんでる状況のイメージしろっての」

よくわからない茶々や横槍が入りながら、緊急事態という設定が出来上がっていく。

「集中豪雨で水浸しになって、轟々と押し寄せる水流の中、俺達は取り残されてしまった」
「おおお」
「一大事だ」
「レスキュー隊はまだ到着しない。空には救援のペリコプターが飛んでいる」
「きっとニュースのカメラもあるな」
「テレビ映っちゃうな」
「おぉーーい、ここだーーー!早く助けてくれーーー!! 俺達は必死で手を振った!」

だんだん盛り上がってきている。ちょっと皆表情が真剣になる。わくわくしてくる。

「が、そのとき、とうとう足場の岩が崩れてしまった!」
「うわぁぁぁぁーーー流されたーーー助けてくれーーーー!!」
「あああ新井ぃぃぃーーーー!!!」
「死ぬなーーーーぁぁぁ!!!!俺の手につかまれーーー!!!」

大きくのけぞった新井の手を、某栄養ドリンクのCMのごとくにがっしと掴んだ!
四人が数珠繋ぎにがしがしと手を繋いで引っ張り合う!


「・・・・・・・暑いな」
「うん」


ぽろりとそう呟いて。
汗の滲む手を離した。


ばらばらとUNOが散らばった。

そんな夏休みだ。






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2013/1/17

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