『消えた君が告げる時の音』




どうして私のことを忘れてしまったの?

君の声が、いつまでもいつまでも、脳裏に響いて離れなかった。


ここに、一冊の歴史書がある。
魔道師と人間の国の戦争を書き記したものだ。
千年も昔のもので、今では伝説化されていて、どこまでが本当の話だったのか随分と怪しい。
だけど、いつからか、この書物から、声が聞こえてくるようになったのだ。

どうして誰も、私の声を聞いてくれないの。
どうして誰も、私の存在に気づいてくれないの。

そんな、物悲しい囁きのような声。

教えてくれ。君は誰なんだ。
ある日僕は、その声に問いかけていた。
哀しげな声は僕に答えた。

誰でもないわ。
私の存在は、はじめからなかったことにされてしまった。
ただ、過ぎてしまったこととして、歴史の一部として流されていってしまうのね。

「聞いてあげるよ。僕は、魔道師の国の歴史を研究している、考古学者の一人なんだ。もし記録に残らなかった、隠された事実が過去にあったのなら、どうか僕に伝えてほしい。僕が正しい歴史の真実として、書き換えてあげるよ」

必ずそれができるとは限らない。でも、できる限りの努力はしようと思う。
それが後世に遺された僕達、滅ぼされた魔道師の末裔の務め。

すると。
ずっしりとした一冊の歴史書が、共振を受けたように震え始めていた。

『私は、魔道師の始まりの一人』

ばらばらと、古びた本の表紙がめくれる。
破けた古い紙の中に、金の粉をまいたような光が見えた。

教えてくれ。どうか僕に、君の語る真実を。







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2013/5/8
15分 648字 





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