『黄金の壺と銀の猫』 ※未完

その黄金の壺は、代々長男に贈られるはずのものだった。
「壺なんかいりません。僕には銀の剣をください」
息子、クノがそういうので、ドット公爵は困ってしまった。
「そうは言っても、お前がこの、幸福を招く壺を引き継いでくれなければ、我が一族の繁栄を誰が願うというのだ」
「僕にはわかっています。この壺は、僕の運命を縛りつけるものです。受け取ることはできません」
ドット公爵が、それが繁栄であると信じているものは、実は呪いなのだ。
ならばその鎖を断ち切る剣を手にいれよう。
黄金の壺を叩き壊して、正体をあばいてやる。
突然、壺の中から、猫が飛び出してきた。
「さすがあの男の息子だな。面構えが違う。お前、気に入ったぞ」
ニヤリと猫が不気味に笑う。
「なんだお前は」
「実は私こそ、初代ドット公爵だ。息子の過ちのためにこんな姿で壺の中の異空間に封じ込められている。お前のような若者が現れるのを待っていた」
そして初代ドット公爵を名乗る猫はこう告げた。
呪いをかけた悪の魔法使いを倒してほしいと。
そのための銀の剣を手に入れるための手段を教えよう。



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2013/5 「誰かと息子」
15分 468字
 






『無題の上映会』


暗く静かなその空間に座っているのが好きだった。
観客はいつも数える程しかいない。僕一人きりしかいないことも珍しくない。
あるいは、ここが映画館であるということが、そもそもこの場所自体が知られていないのだ。
ここは間違いなく映画館だ。しかし看板も上映予定作品も上映タイムテーブルも何もない。
作品名の無い映画をスクリーンに映すのだ。
どんな物語が観れるのか、どんなテーマなのか、ここに座って、上映が開始しないことにはわからない。
実はここは、人の人生を映し出す映画館だ。
人生を振り返る走馬灯が、長くあるいは短い命を振り返る。
そして棺の蓋が閉じられる。
観客は笑っているだろうか。それとも泣いているだろうか。
ああ、これは素晴らしい物語だったと。




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2013/6/16 「悲観的な映画館」
15分 323字 






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