『小説の内容』 ※未完


「ようこそお越しいただいた。ここは作り話を語る訓練場なのだ」
僕を招いた男は、開口一番、そんなことを言い始めた。
「僕はそんな胡散臭いところに遊びに来たつもりじゃないんだ、この小説に書かれていることが、真実かどうか知りたいと言ったら、君がここに連れてきたんじゃないか」
手にしていた単行本をばさりと開いて、男へ突きつける。
これは、先月出版された、僕の姉が書いた小説だ。数年の間、音信不通で、どこで暮らして何をしているのかも知らなかった。
だけど偶然、とある雑誌の文学賞受賞の発表を見ているときに、姉の名前を見つけて驚愕した。筆名は使わず本名そのままで作品を発表していたらしい。
僕はさほど本を読むほうではないので詳しくは無かったが、雑誌はかなり有名なものらしく、文学賞受賞者の発表のことや、稀代の新人、などと煽りをつけられた見出しが、あちこちの書店の店頭なんかでよく見かけられた。
そして出版されたのがこの本。題名は『羨望と希薄』。それは、自伝小説みたいな内容だった。
「君のお姉さんは、ここの小説訓練場で、その原稿を執筆したんだよ」
男は意外なことを語り始めた。
「君も原稿を書いてみるか?」
にやりと口元を歪めて、僕に問いかける。


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2013/5/7 「日本小説訓練」
15分 515字
 









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