『あの手のひらは夕陽のあたたかさ。』
お題:簡単な夕日 制限時間:15分 文字数:418字

--------------------------------------------------------------------------------


「大人になったら、絶対にまた会えるよ」
父の残した借金のために、私達四人家族は生活ができなくなった。
私と兄は、ばらばらに施設に引き取られることになった。
最後に過ごす日、私と兄は、何もない小さな四畳半の部屋の中で、ただじっと手をつないで過ごしていた。
狭くて殺風景で、壁にも畳にも、汚れた染みがあった。
そんな部屋で唯一好きだった光景は、窓の外から眺める、つかの間の夕焼けだった。
窓から見える、建物と建物の隙間。
赤い夕日がちょうどこの部屋に差し込む時間帯がある。
綺麗だった。まるで、私達のことを見捨てない神様が、そっと差し伸べてくれる、温かい希望の色みたいだった。
今日という日が終わって、必ず、明日がやってくる。
虚しい一日、静寂の夜、寂しい朝。
どんな日がやってきても。
明日はもっと綺麗な一日がやってきますように。
「早く、大人になりたいね」
私達は夕陽に向かってお願いした。
あのときの兄の手のぬくもりは決して忘れない。





inserted by FC2 system