『仕組まれた一雫。 』

お題:どうあがいても計画 制限時間:30分 文字数:944字

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「侵入ルートは確保してあるの」

魅惑的な赤い唇を、笑みの形に釣り上げて、彼女は囁いた。
金庫のありかと、そこに到達するまでの裏通路、開錠の方法、セキュリティの解除方法、痕跡の消去の手段に至るまで。一枚の宝の地図のごとくにまとめあげてある。

「それで、どうしても僕を共犯にしたいって?」
「あなたとあたしが出会ったのは、運命だったのよ。こうなるのは宿命なの。あたしと出会った時点で、あなたはもう巻き込まれているのよ」
「おいおい・・・・・・」

強引過ぎるような言い分に、僕はもう、笑うしかない。
固めの杯と言うべきか。用意されていたカクテルグラスの中のマティーニを、僕は一息にあおって飲み干した。

「いいぜ、つきあってやろう。僕らの手で、世界を大きく変えてやろうじゃないか」
「世界を変えようなんて思わないほうがいいわ。それは思い上がりよ。ただね、人の心って言うのは、意外とすぐ変わっちゃうものなのよ。大勢一度に心が流されちゃったら、少しは世の中の流れも変わるのかしらね」

国会議事堂の地下室には、強力な惚れ薬が保管されているという。
それを盗み出してやろうという話だ。
恋の秘薬? 惚れ薬??
まさかそんなものを、そんなところに厳重に厳重に隠しているなんて、誰も想像しないだろうさ。

人の心が簡単に変わるというのは、国と国とが争うくらい大袈裟なことだっていうのか。

「ところで・・・、もしここで、あなたとあたしが恋に落ちたとしたなら、それは偶然なのかしら」

熱っぽい吐息を絡ませて、彼女は僕のほうへ少しだけ距離を詰めた。
上目遣いのその瞳は、まるで魔女の操る水晶玉だ。一度覗き込むと、どんな危なっかしい呪いをかけられてしまうか、わかったもんじゃない。
傍らのテーブルの上には、空になった、マティーニの注がれていたカクテルグラス。
甘いアルコールの残り香が、この場の空気に溶け込んでいる。

「・・・・・・それって、何が言いたいの?」
「さぁね、人の心が動くのなんて、結局は偶然かハプニングだもの」
「今さっきさ、僕と君が出会ったのは運命だとか宿命だとか言ってなかったっけ。どうなんだよそこんとこ」

さてと。
計画はすでに動き出した。

二つの歯車が、絡み合って回りだす。








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2014/1/24


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