『曲芸・キャンディー一粒』




「はいはい、そこのお嬢さん!このキャンディー、食べてみない?」

道を歩いてたら、ピエロが話しかけてきた。
赤と白のトンガリ帽子。白塗りに青や黄色で星を描いている道化師のメイク。
絵の具で描かれたような真っ赤な唇が、あたしに向かってにやりと微笑んでいる。
学校帰りで、塾に行く途中だったのだけど、思わず足を止めてしまった。
細い路地には、他に人影も無い。塀の上に白い猫が一匹こちらを見ているだけだ。

「キャンディー?」
「そうそう。一つ食べるとね、とても楽しい気持ちになれるよ。ドリーミングな気持ちになれるよ。なんてったって、これは魔法のお菓子だから」

そうして、きょとんと立ち止まっているあたしへ手を差し出して、手のひらの上にぽろぽろとキャンディーの粒を乗せた。
赤、緑、黄色、桃色、白。

「試供品だから、気にせずどうぞどうぞ。味見して」

緑色の、つま先の尖った大きな靴で、トコトコと走り去っていってしまった。
あたしの手には、魔法のキャンディー。カラフルで綺麗。

試しに、ピンク色のキャンディーをつまんで、口の中に放り込んでみた。
砂糖菓子みたいな、ほんわか甘い味が、舌の上から喉の奥へと広がる。

ころころころ。
舌の上で勝手に飴玉が動く。あれれれ?

びっくりして思わず吐き出した。

「はいはい!この飴を食べてくれた人には、一分間だけショーを見せます!」

ピンク色の玉に乗ってる小さいピエロが現れた。
なるほど、魔法のお菓子かぁ。






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2013/1/17

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