『土の鈴、鳴らしませ。』
下り坂を降りていく。
まるで時が止まったような静寂。そして底無しの暗闇。
いや、実際、ここは無限の暗闇なのだ。
何も見えない。
ねぇ、助けて。
叫びだしたくなる恐怖さえ、虚空に呑まれて消えていく。
くすくすくす くすくすくすくす
どこからか笑い声が響いてきた。
「ばかだよねぇ」
「二度と帰れなくなるのにねぇ」
くすくすくす くすくすくすくす
・・・・・現れた。
こいつらが、黄泉の国の神か。
「はずれ。あたい達はただの、黄泉比良坂の屍喰いの小鬼だよ」
「お前も喰ってやろうか」
そっくりな顔をした、赤眼の童女が二人現れた。白い着物を着ている。
震えだしそうになるのを堪えて、どうにか声を絞り出した。
「黄泉の国の神様にお会いしたい。どこに行けば会えるの」
膝を折って、持ってきたものを前に並べた。
土の剣と、鈴。
「お願い、あたしの大切な人を返してください。
これは、黄泉の神様と約束して、あたしの故郷で作ってきたものです」
暗い世界に吸い込まれて。呑み込まれて。
何も見えない世界の底へ。
でも、ずっと呼び続けていたのよ。
あなたのために詠いましょう。
そのために、祀りの用意をしてきたの。
代わりにあたしが、この地の底で、屍になって土の中に消えてしまってもかまわないから。
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2013/1/19