「あら。あなた達も双子なんですね」

出迎えた少女達が、二人並んで微笑んでいた。淡い金色の髪をお団子に結い上げ、そっくりな顔を並べている。
右と左にそれぞれ並んで、交互に口を開いている。

「ああ、わざわざ遠くからいらっしゃったってことは、お探しなのはきっとこのお酒ね」
「珍しいでしょう。ここでしか手に入らない、特産なんですよ。銀の鏡池の水と、透明黍を醸して作ってあるんです」

珍しい酒を仕入れている店だと聞いた。
辺鄙な場所にあるその店へと、頼まれたものを代わりに入手してくることが、今回の依頼。
冒険者の宿に寄せられる依頼としては、比較的気楽で安全な内容だった。
ただし、依頼の内容の『それ』については、どんな品物なのか詳しく教えられることはなかった。
その店に行けばわかると、依頼主からはそう教えられた。

「ここでしか手に入らない、そう仰いましたか。それでは恐らく、私達が求めているものはそれで間違いないようです。では、その品物をいただきましょうか」

機械的とも言えるような、無感情な応答。
スコは特に、商売用の愛想笑いを浮かべている少女達に合わせて、世間話や談笑をするつもりはなかった。
ただ依頼がこなせればいい。そのつもりで来ていた。

「俺達さぁ、ただ、ちょっと珍しい特別なお酒って言う、それだけ聞いて頼まれごとで買いにきたんだけどさ。
 見た感じどこが特別なのかよくわからないけど、これってどんなものなの? 教えてよ」

差し出された瓶にスコが手を伸ばそうとしたとき。横からペコが身を乗り出してきて、カウンターの上に乗りかかるようにして肘を載せていた。
一目見た限りでは、どこにでも置いてあるような、普通の酒の瓶にしか見えない。色は無色透明で、明かりに透かしてみると、透き通る液体の中に、時折銀色の光を弾いた。
試しにコルク栓を外して中身を確かめると、ふわりとアルコールの香りが漂った。
柘榴石の色をした彼の瞳は、純粋な好奇心に駆り立てられて、じっとその瓶の中の液体を眺め続けている。
取引を遮った自分の相方に、スコは少しだけ渋い顔を作っていた。
しかし、さっさと仕事を済ませたいと思う半面で、ペコと同様に、これのどこが特殊な代物なのか、それは確かに気にかかっていた。
苦労して遠方にまで足を運んでたどり着いたものの、これが本当に、冒険者の宿に依頼を寄せてまで手に入れたがるほどのものなのかどうかわからない。
仮に、店の噂がでまかせであった場合や、偽物をつかまされた場合、せっかくの徒労が無駄足に終わる。
差し出されたこの品物が、果たして求めていたものなのか、本当に手に入れる価値のあるものなのかということは、一応確かめておきたかった。

並んだ二人の少女は、そろったように全く同じ仕草で、数度瞬きを繰り返し、くすりと小さく笑った。

「あら、知らないで買いにきたんですか。不思議な人達」
「これはね・・・・・・、『心の中の本音を話してしまうお酒』なんですよ」

わざと、内緒話をするときのように声を小さくしてそっと囁いた少女は、明らかに愉しんでいる様子をしていた。
よくよく見ると、鏡に映したようにそっくりな少女二人だが、少しだけ目元に浮かぶ表情が異なっていると気づいた。
入り口から見て奥手側、並んで左側に立つ少女は、わずかに目尻の下がった、優しげで大人しそうな顔つきをしている。対して、入り口からすぐの右側に立って出迎えた少女は、やや活発で気の強そうな、目尻が釣りあがった表情をしている。
更にはその襟元に、古風な字体の綴りで、小さく文字が刺繍してあるのに気づいた。これが彼女達の名前かもしれない。
左の少女はミアル、右の少女はミオルと、少しほつれた細い糸で綴られていた。

彼女達から見て、自分達はどう見えているだろうか。ふと、スコはそんなことを考えた。
傍らの、カウンターに両肘を載せている自分の相方の姿を眺める。丸い二つの肩が露になった、可愛らしい淡いローズピンクのドレス。レースが幾重にも飾られている、花びらを縫い合わせたような衣装。背中にかかるほどに長く伸ばした髪は、二つにまとめて結い上げて、巻いて波打つ髪の先が揺れている。朧な月の光をより合わせたような髪にそっと付けられているのは、薔薇の装飾のある銀の髪飾り。
対する自分は、タキシードを思わせる黒の衣装とケープ、目深に被ったシルクハット。
二人で対になるように。
生まれたときから背負っている宿命に、わざわざ自分達の方から従って、取り合わせた身なりだった。

「本音を話してしまうって?」

スコは、ミオルから聞いた言葉を繰り返した。

「そう。お酒を飲んだときって、気持ちが良くなって、ついつい饒舌になっていろいろ話したくなっちゃうことってないですか?」
「これは少しだけ、そういう効果の強いお酒なんですよ。まるで鏡に映したみたいに、心の中を映し出してしまうものなんです」

ミアルとミオルの言葉に、スコとペコはそれぞれ、瞬きを繰り返して目の前の酒瓶を見つめていた。ペコは、きょとんと不思議そうな表情をして。スコは、やや胡散臭そうに顔を曇らせて。

「なんだか冗談みたいなお話ですね」

スコは少しだけ嘲りをこめた、冷めた口調でそう言った。

「最初はそう思うでしょう? 疑うんでしたら、一度飲んでみたらいいですよ」
「あるいは、誰かに飲ませてみるとか。とても面白いことになりますよ」

くすくす。くすくすくす。
並ぶ二人の少女は、楽しそうに笑い声を上げる。お団子の髪に結った桃色のリボンが揺れていた。

「・・・・・・帰ってから、ペシェにでも飲ませて見ましょうか。毒見役で」
「おお、実験台か。面白いなそれ」

目を細めて瓶を手に取るスコの隣で、ペコがいたずらっけのある笑みを浮かべて頷いている。

「ふふ。せっかく買いに来てくださったので、こちらは特別サービスで、もう一本おまけしておきますね」
「ぜひ一度味見してくださいな」

窓の外では、少しだけ橙色に染まって、傾いた陽が差し込んでいた。

















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