「流星、ふりかざす光のたてがみ」
白い銀色の鬣に、星屑が散る。
獅子座の御使い。お前の主は、どこへ消えてしまったのか。
天空を駆ける獣。
お前を捕らえるために、長い長い旅をしてきた。
「どうやらここでもないようだ……」
物憂げに溜息をつく少年の、背に流れる髪は、星を散らした白銀の色。
狩りはどうやら失敗に終わった。
暁の紅、曙の虹色、宵闇の紫。天空に逃げた獣はいまだ捕まらない。
「大体、どうして僕が、こんな面倒なことしなくてはならないのだ」
洞窟に逃げ込んだらしいよ。
壁画に描かれた獅子だ。
勝たないことには、帰れない。
そう大見得切って出てきたからには。
どんなに憂鬱でも面倒でも。
逃げるわけにはいかないんだ。
これは、大人になるための儀式。
☆
「リエレンが狩人デビューするんだって? おめでとーー」
仲間内には既にそういう話が広まっていた。
ちょっと待て、と一言挟む余地もない盛り上がりようだった。
子供の獅子は大人になると鬣を手に入れる。天翔る白銀の、流星の鬣。
「手に入れることができるカードは二つ。獣の属性を持って、自ら流星の獅子を呼び集めるか。もう一つは、狩人の属性を持って、武器を使って獣を捕えるか」
「はーい、先生。どうしてわざわざ獅子座(レオネ)を捕まえなきゃいけないんですか」
「それはもともと私達が獣の血を引く種族で、天に棲む者と地に棲む者に分かれていたからよ」
ざわり、と。集まっている十余名の教え子達は、わずかに動揺の様子を見せる。
「というわけで、リエレン、あなたは獅子座を捕えに行ってきなさい」
「えええ、だから、それでどうして僕なんですか」
「あなたが狩人の属性を希望していたからよ」
なんだかとても唐突な狩人デビューだった。
獅子は子を千尋の谷底に突き落とす、という、確かそんな話もあったっけ。なかったっけ。
僕みたいに根性がなくてもやる気がなくても、一応、獣の血筋を引いた種族らしいよ。先生のその話によると。
子供の頃に聞いた昔話。みたいなもの。
むかぁしむかし、お空の上には銀の獣、大地の上には金色の獣が棲んでいました。
狩人になって、光の獣を捕えたい、って。
そんなことができるかなんてわからないし。できなくても別にかまわないと思ってる。
ただ、一度出会って見たかった。
白銀の鬣と。
☆
「ははっ。それで、いくつかのカードだけ渡されて。ほーれ行って来ーいって感じで放り出されたのか。素晴らしい放任主義だなおい」
「笑いごとじゃないのだ・・・・・・。とりあえず僕は今のままでは、どこに行けばいいのかもわからないし、武器の使い方さえろくにわからないのだ・・・・・」
「狩人希望にしてたら、十三歳になったら武器を渡されて実習が入るだろ。そのくらい予習しとけよ」
最初に会いに行ったのは、グルセ。僕の兄貴分みたいな人。
小さい頃には正直いじめられたし横暴だけども、「お前もちょっと根性つけろよ」ってな感じで助けてくれたりもするので、何かあった際には力を借りることもしばしば。
それに何より、グルセは『狩人』なのだ。
最初に何をすればいいのかくらい、教えてもらえたらと思って。
「でも俺は地の獣専門だからなぁー、天の獣のほうは正直わかんね」
「グルセは狩りに行くとき、まずどうやって獣を探すのだ?」
「そうだな俺だったら・・・・・・『壁画』を見に行くな」
「『壁画』?」
昔々、僕達の種族がまだ獣だった頃。人間の血筋と混ざるより前。
その頃に描かれたと言われる壁画がある。その頃に存在した獣の姿を描き記してあると。
どこにいるんだろう。
その、一番強くて美しい獣は。
☆
出会ったのは、赤い髪の狩人。
この人に聞けば、何かわかると思ったのだが。
「鬣を持つ獣は、獅子座(レオネ)とは限らない。もっと別の姿形をしている可能性もある」
「そうなのか、他にもいろんなものがあるのか。初めて知ったよ。たとえば?」
「そうだな、たとえば」
にやりと含み笑いを浮かべて、狩人の青年は、なぜか愉しそうに僕を見つめる。
「たとえば、俺みたいなのとか」
まっすぐな光が差し込む、まるで暁の光のような。そんな錯覚。閃く炎に似た幻視。
天を翔る、地を駆ける獣。鬣を持つ者。
ああ、なんて綺麗な鬣なんだ。
悲しいのか嬉しいのか、それとも眩しすぎるのか。
なぜか目に涙が滲むんだ。
出会えてよかった。本当にありがとう。
「君に出会うためなら、僕は大人になってもかまわないな」
谷底に転げ落ちた小さな獣。
夜明けとともに金色の光と共に。
星屑を散りばめた、白い鬣をなびかせて。