#みにくいアヒルの子



「やぁ、君は僕達の仲間じゃないか」

怯えている僕へと、綺麗な白い鳥達が声をかけてきた。
身を竦ませていた僕は、恐る恐る首を上げて振り向いた。
凍りついたように体を強張らせていた、そんな僕へ注がれていたのは。
今まで、一度も出会ったことがなかったような。
親しみを込めた、温かい眼差し。

ねぇ、そんな。冗談でしょう?
僕を見ないで。
蔑むくらいなら、いっそはじめから突き放して。

白い羽に憧れていたんだ。
僕の羽の色は、他の雛とは全然違っていたから。
卵の殻の間から、初めて僕が見た白い親鳥は。
冷たく憎む眼差しで、怒って僕をつつき出したから。
他の、黄色くてふわふわした羽の兄弟達だけを連れて、僕を置き去りにして行ってしまった。

ねぇ。僕も連れて行って
お願い。
僕を。

仲間に入れて。


ずっと怖くて。
怖くて・・・・・。


じっとうつむいていた、僕の浮かぶ水面。
その揺らぐ水面の中に見えたのは。


雪のように真っ白な羽と。
ずっと見慣れていた、僕自身の怯えた眼。
僕を見てくれるのは、水面に映った、この僕自身の目だけ・・・・・・。

真っ白な、羽?


『長い冬は、すぐに明けるよ』


凍死しかかっていた僕を拾ってくれた、人間の木こりのおじいさんの声が、脳裏に蘇った。
あの暖かな暖炉は本当に心地よかった。
このまま死んでしまえたらきっと幸せだと思っていた。


僕の、この白い羽は何なんだろう。
ねぇ。神さま。

首を上げて、ゆらり、水の上を泳いで、茂みの影から出てきた。
春の陽射しを含んで、空の透き通った色が、眩しくてならない。

少し離れたところで、白い鳥達が数羽まとまって飛び立った。
光の中、空へ飛び上がっていく姿が、真っ白な光のようで。
思わず自分の羽も広げていた。

雪のように真っ白な、同じ形をした羽があった。



ああ。世界がこんなに眩しいなんて。






#ヘンゼルとグレーテルがお菓子の家に遭遇するシーン


とろけるような甘い香り。
森の中を歩き回って、天国にたどりついてしまったのかと思った。

したたるチョコレートの壁。
キラキラと輝いているキャンディの窓。
柱は、香ばしく焼けた色をしたビスケット。
屋根は、砂糖をまぶしたクッキーでできている。
まるごとお菓子でできている家だ。

僕達はまばたきさえも忘れて立ち尽くしていた。
夢を見ているんだ。きっと。
二人とも、今にも倒れそうなくらいにおなかがすいていたから、これはきっと、幻か蜃気楼。
よろ、よろ、と、頼りない足取りで、一歩ずつ近づいてみる。
ほわりと、甘い香りが『さぁおいで』と、優しい声で頬を撫でてくる。

触れたら、消えてしまうかなぁ・・・・・・。

手を伸ばすと、一瞬で夢が覚めてしまいそうで。
空腹と渇きのあまりに、舌先も喉も渇いて痺れていた。
けれども、怖くてなかなか触れることができない。
夢ならどうか、覚めないで。

砂糖菓子で作られた扉と、マカロンのドアノブがあった。
恐る恐る、手を伸ばす。
ざり、と、指先が白い砂糖の塊に触れた。
自分の指を見つめると、キラキラと、ダイヤモンドの粉みたいな、粒が。
舌先で、ちょこんと舐めてみる。

まるで、天使の歌声みたいな、甘さ。
















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