蒼い、蒼い波がこぼれていた。

昔々、この国の夜空は黒一色で、星が見えず、夜はただただ、暗くて寂しい世界だった。
夜空に星を招いたのは、海に住む人魚の歌声だと言われている。
宇宙の色と、海のさざなみの色は似ている。
星を沢山散りばめて、小さな光が弾けると、その姿を見ることができる。浪の中に沢山の透き通った色が溶け合っている。
紫、紺碧、瑠璃、白藍、花紺青、水浅葱、天色・・・無数の蒼い色が波模様を描いている。

人魚が岩の上に腰掛けて、打ち寄せる波を眺めている。寄せては返し、砕け散る碧。
指先に集める、海の蒼い色の結晶。
この雫を繋ぎ合わせて、首飾りを作りたいの。波の音色を凝縮した、透き通ったグラデーション。

「人魚は、綺麗な宝石を持っているって聞いたよ」

蒼い波の模様を眺めながら、子猫は首を傾げていた。
魔法使いのお使いでやってきた。赤い首輪には、人魚に支払うための金貨が一枚、挟んである。

「それはね、海の色を集めて形にすることができるから」

銀色の髪を揺らしながら、人魚は子猫の首をそっと撫でた。
塩辛い海の水は嫌いだけど、人魚と会うときに聞くさざなみの音色は、とても優しい響きをしていて好きだった。

傍らには、岩の上に、沢山の白い貝殻が並べられていた。この中に海の雫を垂らして、宝石に固めているらしい。
蒼い透き通った色が、星空の色をして固まっていた。触るとつるりとしていて、飾りの真珠と星の砂が封じ込められていた。
まるで夜空の星と会話しているみたいな、そんな光の瞬きをしていて。

海辺に来た子猫がそれを見ていた。
ああ、ぼくも人魚になりたいな。



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