・第二十三章




(リズ、目を醒ませ)

(戻れないよ  あたしは戻れない)

(どうしてだ、お前はまだやることがあるんだろう)

(何も無いよ  あたしは何もできなかった)


掻き乱される旋律
軋んで渦巻く心の悲鳴


(あたしは、誰も助けられなかったよ)


たどる暗闇の中に、たたずむ彼女の姿を見つけた


(どうしてあきらめるんだ、ここまで頑張ってきたのに)


差し延べる手を取ろうとせずに、ただ、悲しげに見つめて首を振る
切り離された世界を拒む


(どうしてあたしに・・・もう一度生きる権利があるの)

(俺と来い、リズ!)


こちら側とリズの立ち位置を隔てているものは、わずかな恐怖
黒い川のように、流された血のように、一筋の暗い溝を作っている


(あたしのせいで苦しんだ人がいるのに、どうしてあたしが、生きることができるというの)

(そんなこと俺は知らないさ、ただ、お前の声が聞こえたから呼び戻しにきただけだ。
お前はまだ死んではいない。
体を切り刻まれたとしても、お前の心はまだ生きている。
鼓動の音がまだ聞こえ続けている)

(できない・・・できないよ・・・!)


イキタイ
カエリタイ


(もう戻れないよ)


アタシハマダ
イキテイル

反響しあう二つの相反する叫び
どうして自分の声に耳を塞ごうとするんだ


(サフラ・・・・・)

(自分を信じろ、リズ!)


暗闇に差し出した手が、戸惑いさまよう手を掴む
冷たい手を


(怖い・・・怖いんだよ!
誰かに憎まれて生きるのが怖い・・・
お願い、あたしを一人にして
あたしは帰れない・・・!)

(離さない)

(無理だよ・・・できない)

(それはお前の本音じゃない
俺にはお前が生きたいと叫ぶ声が聞こえた)

(あたしに一体何ができるというの・・・・)

(できるはずだ、信じてるから)


呼び起こされる心の鼓動


(自分が本当に伝えたい言葉を叫べ)

(あたしは・・・)

(俺が必ず聴いてやるから!)


だからどうか
歌声を途絶えさせないでくれ

崩壊しかけた世界の中で
星屑のようにざわめく小さな光の粒


(あたし・・・生きてもいいの・・・?)


俺がその声を聴いてやるから


だから
逃げに等しい躊躇など、蹴り飛ばしてこちらへ渡っておいで
こぼれる涙を拭って
もう一度信じてみて

星が引き合う引力のように
君の存在は世界に呼び戻されていく


トクン
トクン


呼び戻される鼓動の音













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