・第十三章



テキーラとホワイトキュラソー、レモンジュース。マルガリータ。
グラスに飾るスノースタイル。

オレンジを添える、テキーラサンライズ。
グラスの内側に静かに注げば、濃いの橙色のグラデーションが、朝焼けの海を映して踊る。

ジンジャーエールとレモン。刺激的で陽気な悪魔、エルディアブロ。

ドライジンを使えば、どんな味もほとんどお好みのまま。
ゴールデンフィズは、砂糖、卵黄で甘く仕上げる。可愛らしいクリーム色。

ブランデーとコーヒーリキュールに氷を加えた、ダーティーマザー。大人びた苦味のある琥珀色。
今日の気分は、キール・ロワイヤル。クレーム・ド・カシス。

紅く
紅く

グラスに注ぐ

・・・・・・苦い。

胸が痛い。鼓動が狂う。
薬・・・は、どこ?
あたしの薬は・・・・


スパークリングワインで、紅の雫を弾けさせる、
壊れていく泡の粒。
ふつふつと沸きあがるのは、煮えくり返る苦味。

紅い・・・・・・





*           *           *



「もうあまり・・・時間が無い・・・・・・」


リズは薬を手に入れることができるだろうか。
私の世界が壊れる前に。


人の体は、あまりにも脆い。
小さなとげに触れただけで、簡単に傷つく。
薄い肌を突き破って、紅い雫を落とす。

痛い。

そうそれが、人の命という病の名前。

リズ・・・早く気づいて。
私が壊れてしまう前に。
じきに、私はあなたと共にいられなくなる。
私にはもうあまり時間が残されていない。

お願い
早く

私を助けて。




*         *           *



暗闇の中に蝋燭の火を灯す
まるで深紅の薔薇が花開くように

あなたを 狂おしい快楽の薬園へと導こう
精製されたアルコール
火をつければ、地下の世界を照らし出す

そこには無数の魔法の薬が並んでいる

酒というものは、太古の昔から薬であったらしい

地下は迷宮
”アズラエル”を求める狼たちが饗宴を招く、この街に残された者達の隠れ家
灰色の空を逃れて、暗闇の中に光を求めた
狂気と同居するカタコンベ

さぁ、宴を始めましょう

透明なホワイトリカー
瓶の中に水晶を溶かす
甘い果実の香りを注ぐ
宝石を並べる
ルビーのイチゴ酒
黄金の鞠を浮かべた金柑酒
ラピスラズリのブルーベリー
蜜色にとろける熟した林檎
琥珀色のアンズの香り
紅いサフラン、金の菊
色とりどりに

石英のような氷砂糖の粒、グラニュー糖
甘い祈りが滲み出すのを待つ
蓋を閉じて時を止める
浮かんでは沈み、じっくりと眠る

ひとりでにうっとりと酔う夢を見て
深く
深く
熟して溶けていく

赤く腫れたハートを癒す薬
薬の材料をちょうだい
あたしが魔法をかけてあげる
透明なリキュールに色を溶かす
甘い口当たりで酔わせてあげる
素敵な夢が見れますように
孤独を癒す夜の虹

・・・・・・今宵のカクテルは、何をお望み?











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