・第六章






”声”を探し続けていた。

秩序の壊れた世界は暗黒に閉ざされて、狂った歯車のごとく、何もかもが軋んで、崩れてしまう。

いつから?
どこから?

この歪んだ崩壊は始まってしまったのだろう。
最初の糸口はどこに在ったのだろう。


時計の針は動きを狂わせた。
過去も未来ももはや正常に結ばれることは無い。
絶望を擦って無言の唸りをあげている。


・・・時計の針は、動かない。


時間の音色に耳をすませる。
歴史と言うのは、人々の鼓動の重なり合った楽章。
その譜面が黒く塗りつぶされていては、奏でることも音を聴くこともできはしない。
暗黒の発端は、どこだ。


動かない針をじっと見つめる眼差しは、耳に聴こえない音を聴こうとする。
見えない。聴こえない。
ならば、探さなくては。

たどりつくための、"声"を。


鈍い銀色をした懐中時計を、静かに懐へと入れる。
指先の、同じ色をした指輪が、刹那に輝く。ほんのひとしずくの光を歌う。
細い光はその指先に紡がれて、六本の弦に変わる。

これが、魔法。

光で紡ぐ道標。



「聴こえない、か?」



暗闇の中から問いかけるのは、同胞である魔法使い。
しかし今は闇の中に姿を消している。
彼の武器である、よく通る声と、金色の眼差しだけが存在を伝える。


「あるはずなんだ、終末を呼ぶ『千年時計』の針を動かした歌声が、確かに、この街に」


塗りつぶされた譜面に、耳をすませる。
しかし、この街の暗黒は、あまりにも深い。


・・・・・・『曲』を作ろう。
この、灰色に閉ざされた街のために。

貝を削った白いピックで、光の弦をかき鳴らす。
祈りを奏でるストリングス。旋律の螺旋。



夢幻の中から蝶が舞い降りる。
浮かび上がるように。


こいつが案内してくれるはずだ。
音によって具現化させた、『アズラエル』の姿だ。
この街を狂わせた、死の天使。
人の心の中に舞い降りた、快楽と絶望の麻薬。

夜の中へと溶けていく。
月明かりさえも闇に吸い込んで。


俺たちをどこへ導くのだろう。

この曲の本当の序章は、一体どこにひそんでいる。

崩れたビルの陰か。
暗黒の地下か。
赤いワインの注がれたグラスの中か。


・・・・・・この曲の題名は何にしよう?


『broken town』


それがいい・・・・・・。







地下は迷宮
地上は滅びた過去の夢

橙色の灯をたどる
導はどこへ誘い出す
宴は今も続いている

希望の無い暗闇での集い

迷い続けている
探し続けている

長い夜が明けるのを祈る

太陽はどこへ消えたのだろう
風はなぜ声を消したのだろう

迷い続けている
探し続けている

この闇を切り裂く銀のナイフを求める

橙色の灯をたどる
導を求めてたどりつく


宴は今も彼らを呼ぶ














絶望を浸す灰色の空に向かって、手に握る羽ペンを走らせた。
狂った世界の歌を聴け。
一篇の詞に思いを託せ。


物語を結ぶ呪文を探す。









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