・第七章




桜酒
カーネーション酒
アンズ酒
キンカン酒
ブルーベリー酒

月光のようなグレープフルーツ
陽の光を集めたネーブル
涼風の香を注ぐレモンとライム
細かく刻む干しアンズ
毒々しいアメジスト色のプルーンの果実
砕けたガーネットのレッドチェリー
腐肉のように熟れたライチ

紅から紫に沈む牡丹酒
毒を含んだ紫陽花酒
むせるほどの金色の香金木犀酒
手慰みに遊ぶ花さんざし酒
花束から零れるパンジー酒
薄紫が滲みるマロウ花酒
真紅を映す薔薇酒
数珠玉をほどく南天酒

白いリキュールに泳がせて
蜜に絡めて溺れさせて


滲む血のようなサフラン酒
刺すように薫るタイムの葉
胸の内を浄化させるエメラルドの薬
白く浮かんで咲くカモミールの花
爽やかに歌い始める茉莉花
酸味が喉を熔かす気高いハイビスカス
甘く誘いこむ娼婦月桂樹



心を溶かす、虹色の薬・・・・・・












綺麗な細い瓶の中に、花びらが踊っている。
香水のような甘い香りと酒の匂いが心を酔わせる。



知ってた?
お酒は、素晴らしい薬になるのよ?



花を漬けても。
葉を漬けても。
果実を漬けても。



桜は美肌。ホワイトリカーと砂糖で漬け込む。
ダンデライオンは血液の浄化。甘くしたいなら、グラニュー糖が相性が良い。
薔薇を漬けるなら、白ワインと蜂蜜。
ピンクのカーネーションには、精神安定の作用有り。


菊。
りんどう。
紅花 ・ ・ ・  ・ ・ ・  。


苦味のある薬効酒に、甘いガムシロップを注ぎ込んで、すがるように、喉の奥へと流し込む。
ツンとした香りで必死に正気を保とうとする。


この世の憂いを滅するかのように。



地下の迷宮に、運び込まれる宝石。
苺にライム、グレープフルーツ、パイン。
果実は欠かせない。
そしてリキュール。


これは、取引。



「リズ、どうしても”薬屋”は続けるのか」
「うん。当然だよ。あの麻薬には、中和剤が必要なの。・・・・・・あたしが薬を作らなきゃ」
「お前もサフラも・・・・・いつかユーナのようになったらと思うと」
「大丈夫だよ、スタリオ。あたしにはこの薬があるもの・・・薬に負けて壊れたりなんかしない。ユーナさんだって、あたしがきっと治す。もっと効く薬を探すよ。きっと助けてあげる。
 スタリオ、あなたがあたしを助けてくれるのだって、あたしのためじゃなくてユーナさんのためでしょう? わかってるよ」
「リズ・・・・・・」
「ううん、皮肉じゃないよ? 協力してくれるだけで、とても感謝してくれる。お酒や薬の材料を他の街から運んできてくれるのは、とても助かるもの」
「お前がユーナを助けようとする義理はねぇだろ・・・・・・正直俺は、お前らは早くここを諦めて、離れるべきだと思ってる」
「あたしがやらなきゃいけないの・・・・・・あたしの薬で、助けたい。あたしには、それしかできない」


もし、頭の中で悪い声が聴こえたら、誰か、助けてくれるだろうか。
目を覚まさせてくれるだろうか。


「もしあたしが『アズラエル』にとりつかれたら・・・そのときは、スタリオかギル、あなた達があたしに薬をくれるよね?
 サフラもそう・・・・・・。サフラを最初に助けたのはあたしだけど・・・今は逆に、あたしが助けられてる。
 彼女がいるから・・・サフラがあたしのことを信じてくれるから、あたしはまだ頑張れる。だって、大切な人を助けたいから。
 スタリオも、ギルも、そうでしょう・・・?」


透明なリカーは、まるで涙の色に似て。
色も味もなく、ただ、胸と喉を焼く。


「ところで、サフラの帰りが遅いね・・・・・・あたし、見てくるよ」









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